身体の至る所にポツポツと赤い虫刺されの痕が出来ている。
この季節柄仕方ないとはいえ、やはり我慢ならない。
『痒い!』
がしがしと乱暴に掻き毟れば、頭上から慌てた声が聞こえてきた。
『宿主!ストップ!我慢しろ!』
『我慢出来ないよー!かわってよー!』
『あのなぁ、俺様だって痒いんだっての。』
はぁ、とため息を吐かれる。
え?と疑問符を頭に浮かべていたのがわかったのか、君はすい、と腕を僕の目の前に掲げた。
半透明の腕を凝視すると、ちょうど同じ位置に赤い虫刺されの痕が出来ている。
同じ身体を共有しているのだから、当然といえば当然なのかもしれない。
けれど君は涼しい顔をしていたし、何よりそんな処まで共有しているとは思わなかったのだ。
『痒くないの?』
バクラは僕の様に力任せに掻き毟ったりせず、
点在している虫刺されをむしろ冷ややかに眺めているだけだった。
『痒いに決まってンだろ。我慢してんだ、我慢。』
何でも無い事の様に言われ、言葉に詰まる。
痒くて痒くて仕方ないのは僕だけだと思っていたけれど、それは違ったのだ。
『宿主も我慢しろ。』
まるで子どもをあやすかの様に腕が伸びてきて、その言葉と共に頭を撫でられる。
勿論感触は無いけれど、その手付きが何だか心地よくて、ほぼ反射的に僕はこくりと頷いた。
『僕も我慢するよ。』
『それでこそ俺様の宿主だ。』
ふ、と君にしては珍しく柔らかな微笑みを見せるものだから、
虫刺されの痒みも何処か遠くに行ってしまった様だ。
共有しているという事実が何故か、心地よい。
『うん。』
小さく呟けば、後は溶けていくだけ。
虫刺されも君となら、悪くないかもしれない。
身体の至る所にポツポツと赤い虫刺されの痕が出来ている。
この季節柄仕方ないとはいえ、やはり我慢ならない。
『痒い!』
がしがしと乱暴に掻き毟れば、隣りから慌てた声が聞こえてきた。
『宿主!ストップ!我慢しろ!』
『我慢出来ないよー!蚊のバカッ!ついでにバクラのバカッ!』
『俺様に当たンな!今薬持ってきてやるから!』
ぱたぱた、と足音が響く。どうやら薬箱を探してくれているようだ。
その間も痒くて痒くて仕方がなく、ついつい掻き毟ってしまう。
また怒られるかなぁ、とぼんやり考えた処で、遠ざかっていた足音が今度は近付いてきた。
どうやら薬箱がみつかったようだった。
『バクラ、早く薬塗ってー。』
すい、と噛まれた腕を差し出すと、バクラは歯切れの悪そうな顔をした。
『薬、なかったんだけど・・・』
言われて、そういえば虫刺され用の塗り薬は買ってなかった、と気付いた。
途端に痒みがぶり返した気がして、また傷口をがしがしと掻き毟る。
『こら宿主!キ○カン買ってやるから!』
母親の様に僕をたしなめる古代エジプトの邪神様の姿は、何だかシュールだ。
それがとても面白くて、ついついわがままを言ってしまう。
『キ○カンはしみるからやだっ!ム○がいい!』
『わーった!わーったから!ム○買ってきてやるから!掻くンじゃねェぞ!』
それでも、僕のお願いを受け入れてくれると知っている。
乱暴だけど、優しいね。
『ありがと!だいすきー!』
にへ、と笑うとバクラは面食らった様な顔をした後、不意打ちの告白に少しだけ頬を染めながら、
行ってくるとだけ告げてさっさと外に出てしまった。
『行ってらっしゃい。』
ふふ、と何だか幸せになった僕は、笑って彼を見送った。
虫刺されも、たまには悪くないかもしれない。
ばくばくは結婚して第三子おめでたくらいいってる。
と思ってるぐらい頭沸いてる。でも書く小説は全くそんなことはなく、たいがい甘くない。
でも甘いのもあるよ。
ほぼバク獏でたまに他。みたいな感じ。