身体の至る所にポツポツと赤い虫刺されの痕が出来ている。
この季節柄仕方ないとはいえ、やはり我慢ならない。
『痒い!』
がしがしと乱暴に掻き毟れば、隣りから慌てた声が聞こえてきた。
『宿主!ストップ!我慢しろ!』
『我慢出来ないよー!蚊のバカッ!ついでにバクラのバカッ!』
『俺様に当たンな!今薬持ってきてやるから!』
ぱたぱた、と足音が響く。どうやら薬箱を探してくれているようだ。
その間も痒くて痒くて仕方がなく、ついつい掻き毟ってしまう。
また怒られるかなぁ、とぼんやり考えた処で、遠ざかっていた足音が今度は近付いてきた。
どうやら薬箱がみつかったようだった。
『バクラ、早く薬塗ってー。』
すい、と噛まれた腕を差し出すと、バクラは歯切れの悪そうな顔をした。
『薬、なかったんだけど・・・』
言われて、そういえば虫刺され用の塗り薬は買ってなかった、と気付いた。
途端に痒みがぶり返した気がして、また傷口をがしがしと掻き毟る。
『こら宿主!キ○カン買ってやるから!』
母親の様に僕をたしなめる古代エジプトの邪神様の姿は、何だかシュールだ。
それがとても面白くて、ついついわがままを言ってしまう。
『キ○カンはしみるからやだっ!ム○がいい!』
『わーった!わーったから!ム○買ってきてやるから!掻くンじゃねェぞ!』
それでも、僕のお願いを受け入れてくれると知っている。
乱暴だけど、優しいね。
『ありがと!だいすきー!』
にへ、と笑うとバクラは面食らった様な顔をした後、不意打ちの告白に少しだけ頬を染めながら、
行ってくるとだけ告げてさっさと外に出てしまった。
『行ってらっしゃい。』
ふふ、と何だか幸せになった僕は、笑って彼を見送った。
虫刺されも、たまには悪くないかもしれない。
身体の至る所にポツポツと赤い虫刺されの痕が出来ている。
この季節柄仕方ないとはいえ、やはり我慢ならない。
『痒い!』
がしがしと乱暴に掻き毟れば、隣りから諭す様な声が聞こえてきた。
『あまり掻き毟るな。』
『でも痒くて仕方ないんだ。』
『待っていろ。今薬を持ってきてやる。』
すたすたと足音が遠ざかっていく。
どうやら薬箱を持ってきてくれるようだ。
その間も痒くて痒くて仕方がなく、ついつい掻き毟ってしまう。
また何か言われるだろうか、とぼんやり考えた処で、遠ざかっていた足音が今度は近付いてきた。
どうやら薬箱がみつかったようだった。
『亮、薬はあったのか?』
すい、と噛まれた腕を差し出すと、亮は無表情のままこくりと頷いた。
『此れで良いか。』
言われて、薬のラベルを見ると、見覚えの無い品だった。
そもそも日本の薬品には疎い為、何だっていいやと思いながら頷く。
『少し染みるが、直に気持ち良くなる。』
そう言って亮は僕の腕にその薬を塗りだした。
不穏な空気を放つ台詞にツッコミを入れる暇なくキィンと痛みが走り、思わず叫んでしまう。
『痛っ!染みる!何これ凄く染みるんだけど!』
『キ○カンだからな。しかしム○は生温い。やはりこれ位染みる方が気持ち良いだろう?』
当然、とばかりに告げてくる目の前の男にうっすらと殺意が沸く。
このドMが!
『僕は別にッ…!し、染みる染みる染みる!』
乱暴に掻き毟っていた為か、ビリビリとした痛みが身体中を駆け巡る。
くそ、覚えていろ!
お前が蚊に刺された時は逆にこのキ○カンとやらを隠して変わりにム○という薬を用意してやる。
生温さにがっかりするが良い。
『ほら、他に噛まれた処も塗ってやろう。キ○カンは偉大だからな。すぐに治る。』
これだけ染みる染みると喚いているのに、なおキ○カン片手に僕に迫ってくるのだから、
実はドSの気もあるのかもしれないが。
虫刺されなんて、大嫌いだね!
これはもう、本気で全部の替え歌を考えるしかない・・・!そしてみんながカラオケで歌えるように・・・^^ワンクッションでお返事です。ありがとございます!
何時からだろうか。愛してる、と言わなくなったのは。薄っぺらい嘘を並べて、愛してると戯れ事を吐いていたあの頃と何が違うのだろうか。
『宿主、・・・』
唇を啄んで舌を絡め取る。歯列をなぞり口内を蹂躙すればすぐに苦しそうに腕の中で藻掻くお前に、言いようもない思いが募る。何という馬鹿げた思考だ。心地よさに胸が焦がれるなんて、とてもじゃないが自分らしくない。
けれど高揚感に突き動かされるのは実のところ、悪くも無かった。
『ん、ん・・・』
角度を変えて再度口付ける。一瞬の解放に酸素を取り込もうとしたのかひゅう、と息を吸い込む音が聞こえ、けれどそれを許してやる程優しくはない。すぐにまた唇を塞いで深く深く、息も出来なくなる程に。
『っ・・・ふ、っ・・・あ・・・もう、息、っ出来ないかと、思った。』
『死にゃしねェよ。心の中なんだからよォ。』
漸く解放してやると、途端可愛くない事を言うお前に意地悪く笑う。そういう事じゃないと思う、とむくれられても、事実そうなのだから仕方がないだろう。此処はお前の意識の中だ。実際に呼吸困難に陥っている訳では無いのだから気にするな。
俺達はこの部屋で数え切れない程口付けを交わし、理性が飛ぶ程身体も交わし、永遠とも取れるような時間を共有してきた。ひとえに其れは体よくこの宿主を懐柔し、支配し、都合良く操る為だった。
その為に何度も口付けて抱きしめて、甘ったるい嘘を吐き続けたのだ。
そしてその目論見は驚くほど上手くいき、お前は俺という闇に飲まれた、筈だった。
筈だったのに。
抵抗もせず腕の中にすっぽりと収まるお前に、俺もまた懐柔されているとしたら、
『そういえばさ、』
『っ・・・何だよ。』
遠慮がちにぶつかる視線に、馬鹿げた結論を弾き出しかけていた思考を中断した。
淡碧色の瞳が言い淀み揺れる所にまた、ぐらりと傾きかけるけれど、それをも打ち消すように今度はちゅ、と触れるだけのキスを落とし、続きを促す。
観念したかの様に開いた唇が甘いと思う様になったのは、何時からだったのか。
『お前最近、愛してる、って言わなくなったよね。』
前はあんなに言ってたのに、と躊躇いながら言われ、図星を指されたとぴくりと身体が強ばるのを知覚した。確かにこいつを懐柔し、支配しようと思っていた当初は幾度となく心にもなく愛してると囁いていた。思ってもいない言葉にこいつの思考が揺れる様を見て内心嘲り笑っていた。
けれどそうなのだ。
最近の俺は、その言葉を囁く事がどうしても出来ないのだ。
薄っぺらい嘘を吐けなくなったのだ。
『・・・そんな事、ねェよ。』
『嘘、だって・・・!!ん!』
なおも言及しようとする唇を再度深く深く遮る。言葉を遮断し、荒い口付けに意識を持って行かれてしまえと、祈る様に舌を絡めた。
不安に感じる理由は無い。それ処か諸手を挙げて喜べばいい。
愛してるなんて、もう言えないんだ。
愛してないからじゃない。
ガラにもなくお前が世界で一番大切だと、気付いてしまったからだ。
薄っぺらい嘘を並べて、愛してると戯れ事を吐いていたあの頃と全てが違うのだから。
荒々しくけれど自分らしくもない優しい口付けで、どうかお前が此の意図に気付きますように。
【大好きなあなたに5題】 :SILENT SPEECH 05:愛してるなんて、もう言えない
ああああああああああああああ。
落ち着け、落ち着け。
どくんどくんと心臓がやけにうるさくて、落ち着こうと思う心とは裏腹に僕を駆り立てる。
全身の血が逆流したかの様に身体はがくがくと震え、胃液が迫り上がる。
嘘だ嘘だ嫌だ嫌だ嘘だやめてあああああ。
落ち着ける筈が無い。嫌だ。やめて。どうして。何で。思考が滅茶苦茶で論理よく考えられない。
静かにしてよと僕は自分にそう叫び、
けれど鼓膜に響くどくどくと脈打つ心臓がそれを邪魔し、
そして堰を切った様に流れ出す涙が視界だけでなく思考も霞ませた。
僕の勘違いなんだ。
君の鼓動が聞こえないのは僕の心臓が五月蠅いからで、
君の存在を感じられないのは、僕の思考が混乱しているからで、
きっと僕の心臓が静まれば聞こえる筈なんだと。
絶望に陥りながらもそう言い聞かせる自分は愚かしい。
ああああああああああああああ。
静かになんてならない鼓動が、脳を揺らす。
どくんどくんと鳴り響く心臓が止まらなければ君の鼓動が聞こえないのか、なんて、
現実から目を逸らしながら、僕はひたすらに咽び泣いた。
嘘だ嘘だ嫌だ嫌だ嘘だやめて君が居なくなったなんて
嘘だ嘘だ嫌だ嫌だ嘘だやめて君の鼓動が聞こえないなんて信じないあああああ。
【大好きなあなたに5題】 :SILENT SPEECH 04:静かに! 君の鼓動が聞こえない
ばくばくは結婚して第三子おめでたくらいいってる。
と思ってるぐらい頭沸いてる。でも書く小説は全くそんなことはなく、たいがい甘くない。
でも甘いのもあるよ。
ほぼバク獏でたまに他。みたいな感じ。