9/2の宿主様の誕生日をもちましてバク獏100枚書けたのでサイト閉鎖しました。
二ヶ月弱ですがありがとうございました。
首に手をかけられる。次いで、ぎゅ、と力を込められた。ああ、お前が体を持っていたならば僕はあっさりと殺されているのだろう。けれどお前は幽霊みたいな存在で、実体が無いのだ。だから生憎と僕は痛くも痒くも無い。滑稽だね。破壊衝動が突き動かすままに僕を絞め殺そうとするお前の、その双方の瞳には僕はどの様に映っているのだろうか。大方3000年待ち続けた格好の隠れ蓑で躾の行き届いた手駒なのだろうけれど、僕はよく其れについて考える。考えて考えて、ぐるりと一周した思考はやっぱりそうなのだろうな、と結論付けて戻ってくるだけだ。お前にとっての僕の価値なんてその程度、だということを嫌という程思い知るだけ。
『手、どけてよ。』
それにしても感覚は無いとは言え、嫌な気分だ。何しろ自分と同じ背格好の悪趣味なお化けが、僕を絞め殺すふりをしているのだから。更に、それに加えて忌々しそうな瞳で見つめられちゃあ堪らない。僕が死んだら困る、と言っておいて殺気たっぷりにねめつけられるなんて、悪趣味で矛盾しているよ、と大仰に溜め息を吐けば、その鋭利なつめがぎりぎりと僕の喉元に突き立てられた。ああ、勿論痛くは無いのだけれども。
『――宿主、』
ぎりぎり。意図を計り知れない僕の喉に更に突き立てられる、爪。実体があったならば鬱血してお前もきっと、痛いよ。其れ程までに力を込めている様で僕は悲しくなった。単純に、哀しい気持ちで咽てしまいそうな程。
ねぇ今日は何が気に入らなかったの。僕が皆と楽しそうに話をしていたから?お前の呼びかける声もなあなあに、次の休みの日は遊ぼうだなんて勝手な約束を取り付けたから?お前は俺のモノだ、と告げてきた瞳は今よりもっと鋭利な刃物だった。その鋭い瞳に熔かされて、僕は君のモノなのだとちゃんと理解したじゃないか。けれど何故か今の瞳は鈍く錆付いていて、刺し殺されたらもっと痛いだろう。ねぇ、僕はお前のモノなんでしょう。手駒で媒体で格好の玩具なんでしょう。だったらそんな中途半端に餌を与える隙なんて見せないで、もっと僕を蹂躙して、弄って、服従させたらいいじゃない。期待してしまうのは嫌なんだ。ぐるりぐるりと回り続けて、君の感情を誇大評価してしまった後がひどく怖い。だからさあ早くお前にとって僕はその程度、と思い知らせて。
『ねぇ、絞め殺すか手をどけるかどっちかにしてよ。』
相変わらず錆びた瞳に向かって放った言葉は、とても酷かもしれないけれど、そんなことはもうどうだっていいんだ。
窒息死するのは簡単だ。僕の首なんて絞めなくたって、お前という存在が僕の体から酸素を奪って消していく。
お前はもう僕にとって空気のようなものだから、居なくなったらきっと壊れてしまう。
だからどうか『お前のモノ』だなんて即物的な縛りでいいから、このまま惨めな僕で居させて。
もしかしたら、何て自意識過剰な意識がぐるりと巡ってくるまでに。
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『日本人てロマンチストで他力本願だね。』
ふ、とエドは小馬鹿にした様に笑った。けれど勿論実際に馬鹿にしている訳ではない。あくまで其れが彼のスタンスではあるが、このような物言いを快く思わない人間も多かった。
『いきなり何だ。』
しかし投げ掛けられた台詞に、亮は特に何の感慨もなく無表情で答える。唐突な台詞にも不躾な物言いにも慣れていた。エドは歯に衣着せる、という事をしない。素直だと言えば聞こえも良いが、詰まる処率直な上に他人にどう思われようが構わない性質なだけだ。それを亮もきちんと理解していたので、特に不満に思う事なくさらりと受け流す。大人で最良の対応だった。もっとも、だからこそエドは亮とよく行動を供にしていたのだが。
『今日、タナバタってやつなんだろう?十代に聞いた。』
なるほどそれならば合点がいく、と亮は思った。十代、と呼ばれた男はそういった行事ごとが何よりもすきそうだし、おまけに周囲も巻込んでお祭騒ぎを考えるような人間だ。大方そういった行事ごとに興味もないエドをも巻込んで、今日という一日を大いに盛り上げようという魂胆なのだろう。
『短冊でも貰ったか?』
亮はそう言うとちら、とエドを覗き込んだ。十代の考える事だ――おおよそ祭り好きな吹雪や剣山、その他諸々も悪乗りし笹の十本や二十本ぐらい何処からか調達してきているだろう――願い事を書くための短冊位は託けられているに違いない、といった亮の読みは完璧だった。御名答、とばかりにエドは亮の目前に、長方形に切り揃えられた色紙をぴらぴらとはためかせる。きっと俺の分も用意されているだろうな、ということは亮の想像に容易い。
『十代に限らず日本人って好きだよね、こういう馬鹿みたいなの。』
エドは呆れた様に笑い、何も書かれていない短冊に目を通した。およそ願い事を誰かに叶えてもらおうという他力本願な考えのないエドらしく、渡されたはいいが何かを書くつもりは無いらしい。らしいな、と亮は思ったが口には出さなかった。亮もまた、エド程では無いとはいえ空に向かってお願い事をする、だなんてロマンチックなことはしない主義だ。願ったものは自分の力で手に入れてきたし、そして此れからもそのつもりだ。しかしだからと言って十代達が他力本願な訳では無く、単純に騒ぎたいだけだということも知っている。
『たまには良いだろう、付き合ってやれ。』
だから、きっと喜ぶ、と付け加えて、亮はエドを促した。案外情に熱い部分もあるエドは頼まれ事は断れないらしい、という事を把握していたからだ。弱みに付け込む様であるが、たまには良いだろう、と亮はもう一度こっそりとそう思った。何しろ今日は七夕、なのだから。自分の力で手に入る物事は願わないにしても、皆が今日という日を楽しめればそれに越した事は無い。
『…判ってるさ。』
案の定渋々ながらも了承したエドは、短冊を見つめながらぼそりと呟いた。勿論十代から短冊を受け取っている時点で断りきれなかったのだから、参加は与儀のない物だったのだ。
『雨が降りますように、て書こうか。』
『天の邪鬼なやつだな。』
せめてもの反抗だろうか、可愛げのない事を言うエドに亮は思わず苦笑した。
今夜は天の河も綺麗に見えるだろう晴天だ。
エドの願い事は叶わないだろうが、本心でない事も判りきっていたので構わないであろう。
7月7日――七夕という特別な日も騒がしく過ぎていくであろう事は、容易に想像できた。
日本の夏は暑い。単純に気温的な問題というよりは、湿気が関わってじめじめと鬱陶しい部分に問題がある。
『ねぇ暑いんだけど。』
小柄な男――エドは怠そうにソファに沈みながらぶつくさと不平を宣った。いつもならばかちりと合わせたスーツやネクタイを、今やだらしなく緩ませてだらけながらそう一人ごちる。冷房の人工的な風が気に入らない、と言ってクーラーの風を遮断してしまった為に、頼るものは自然の風だけとなっている。けれど無風に近い晴れた青空が容赦なく照り付け、窓ガラスから差し込む陽の光に忌々しく舌打ちしながら、エドはうなだれた。夏は嫌いではない。スポーツ万能な彼の趣味の一つにサーフィンがある辺りからも伺えるのだが、生憎と諸外国に比べてじめじめとした気温の日本の夏には馴染めなかったらしい。仕事の関係で各国を転々とする事も多いのだが、今は一身上の都合、日本に滞在しているのだ。おそらくこの夏が終わるまでの間ぐらいはずっとこちらで過ごすであろう。仕方のない事だと割り切って考えてはいるのだが、不平を口にしないとやってられない、といった気持ちが見て取れた。
『何を言う。』
その時だ。そのまま永遠とソファに沈みながらぐちぐち言い続けそうなエドに向かって、男が一人歩いてきた。小柄なエドとは違い細身ではあるが長身で、そしてだらしなく着崩したエドとは対照的にかっちりと黒服を着込んでいる。エドの目の前で立ち止まったその男に暑くないのか、と問いたい衝動に駆られたが、しかし男の顔もうっすらと汗ばんでいる事を確認して愚問だなと取りやめた。暑くない筈がない。窓は開け放っているものの、無風の状態で冷房も何も動いていない室内が、どれほどのものか何て判りきった事だ。
『いきなり押しかけてきたと思ったら、勝手に空調を切ったのは誰だ。』
はぁ、とため息と共に続けられた台詞は、此処が彼の自室である事と、そしてエドの理不尽な行動をも顕著に著していた。
『だって嫌いなんだもの。それにクーラーは身体に悪いよ、亮。』
しかし悪びれもなくエドはそう答えると未だ目の前に突っ立っていた男を見上げた。亮、と呼ばれた長身の男はその答えも想定の範囲内だとばかりに苦笑し、ようやくエドの隣りへと腰を据えた。ソファが2人分の重みに、ぎしりと軋んだ音を立てる。
『確かに身体には悪いがな。』
エドの気紛れで自己中心的な行動も慣れたものだ。最初こそいけ好かない、と反目したものの、慣れてしまえば可愛らしいものだった。もっとも、亮の方が2つ程歳が上だからそう考えられるのかもしれない。
生意気な弟が出来たと思えばそうそう気にはならないものなのだ。
『日本の夏がこんなに過ごしにくいとは思わなかったよ。』
穏やかに構えている亮と対照的に、未だ苛々した面持ちのエドは手でぱたぱたと自身を扇ぎながら亮に不満をぶつける。その台詞に仕方ないだろう、と窘めれば、仕方ないけど、と返答が返ってくる。結局、エド自身も判りきっているのだ。ただ不満を人にぶつける事で少しだけ鬱憤も晴らせる、といったものなだけで。
『ねぇ、日本人はどうやって涼を取るの。』
亮がエドの隣りに座って幾分か立った時だった。エドははた、と気付いたように話題を提示した。暇だったからか、暑さに限界を感じたかは判らないが、とにかく。
『そうだな…肝試しとかではないか。』
その言葉に考えながら亮が示唆すると、エドは見て判る程に眉根を寄せた。馬鹿馬鹿しい、と言わずとも顔に書いてある。非科学的な事はどうやら信じない質らしく、幽霊や心霊的な現象で肝を冷やすようにはできていないらしい。
『他は?』
もっと素晴らしいアイディアはないのか、と暗に含みながら亮を見上げる。隣り同士腰を落ち着かせているとは言ってもやはり元々の身長差があり、エドの目線は上に上がったままだった。
『他…と言われても。』
その射ぬくような視線に苦笑しながら、亮は考えを巡らせた。無茶ぶりは今に始まった事ではないが、此処まで彼にずけずけと物を言う人間も珍しい。まして年下なら尚更だ。そこがエドの良い処ではあるが、この様なケースは今までになかったもので亮は毎度の事ながら少々戸惑ってしまう。友人代表、天上院吹雪等はどちらかと言えば話題を振り撒いてくれる側なので、最悪相槌を打てば事足りる。なのでエドの様なタイプの人間とこうして会話をするという事自体が珍しいのだ。
『ねぇ、何かないの。亮。』
言い淀んでしまった亮に追い討ちをかけるように、エドはその大きな瞳で亮を見据えた。亮は勘弁してくれ、と思わず告げそうになったが、それでは完璧にエドの臍を曲げてしまうと知っていたので寸での処でその言葉は飲み込んだ。
『…俺が寒いギャグでも言えば涼しくなるだろうな。』
変わりに、半ば自棄くそな返答をする。しかし余りにも自棄すぎて、失言だったと口にしてから亮は気付いてしまった。
まさか亮の口から“ギャグ”という単語が出ようとは、さしもの天上院吹雪すら予想出来ないだろう。それほど珍しい発言をしてしまった、という事も亮自身も判っていた事を、勿論エドが気付かない筈がない。先程までより更に大きな瞳で亮を凝視しながら、口はぽかんと開ききっていた。まさか亮が、と言わん許りの表情にしまった、と思ってももう遅い。
『いや、今のは』
『っぷ、あははは』
取り繕おうとした瞬間盛大に笑われ、かあ、と顔がほてるのが知覚され、亮はますます後悔した。
『亮がギャグって、似合わないね。あはは。』
腹を抱えて笑うエドに、軽く殺意すら沸き上がる。元はと言えば勝手に上がり込んできて勝手に空調を切っておきながら、暑い暑いと愚痴るエドが悪いのだ。
『お前…!』
いい加減笑い止め、と亮が言おうとした時だ。ぽすん、と肩に感じたのは頭の感触で、エドがもたれてきたのだ、と知覚したのは少し立ってからだった。
『エド…?』
突然の甘える様な仕草に反論しようとした言葉が引っ込み、今度は亮が目を真ん丸くする番だった。
『はー面白かった。』
こて、と頭を亮に預けたまま満足そうに笑っているエドは先程までの不満は何処へやら、といった感じだ。くっついているせいで確実に離れているより暑いだろうにご機嫌、といった面持ちなのは、亮の珍しい発言がツボにはまったからだろう。
『…暑いんじゃなかったのか。』
『君のおかげで涼しくなったから、いいの。』
ふふ、と笑いながら擦り寄ってくるエドに、ますます暑くなったのは亮だけだった。
プラトニックな関係を、何て思っているわけではないけれど、君に触れられるのはやっぱり苦手だ。
普段は『触れられないもの』だと認識しているからだろうか、質量を持たれるとどうしていいかわからなくなるんだ。だって普段は幽霊みたいにあやふやな存在で、抱き締められるどころか手を握ってもらうことすらできないんだもの。
『こっちに来いよ。』
だから君は僕を僕の世界に呼び込む。僕の世界には僕と君の2人だけで、いわゆる心の中、というものだけれど、そこでなら触れることも触れられることも可能だから。何より、ふ、と意識を底に沈めるだけで君に抱き締めてもらえるんだから、極めて簡単なことなのだしね。
『宿主。』
何もない簡素な世界にぽつんとした人影が、ひとつ。手招かれるままに近寄れば、ぐいと抱き締められる。こんなに僕の心の世界は空虚で寂しげだったかな、とふと思うけれど熱に溶かされてそれ以上の考えを遮られてしまった。優しくて温かい熱に抱きすくめられると、やっぱりそわそわ落ち着かない。柄じゃないね。あんなにも忌み嫌う存在であった人物に僕は絆されているどころか、熱に浮かされて鼓動を早めている。落ち着かない。3千年の悠久の時を生きた亡霊の温もりに意識を奪われる感覚も、それを喜ばしく思う自分にも。
『宿主。』
また、君は僕の名前を呼ぶ。けれど先程と少し違うのは、君の声が耳元のずっと近くに谺する処だとか、意味が無い事に意味がある処だとか。きゅ、と抱き締めてくる腕の力が緩んだ、と知覚した瞬間、ちゅ、と音を立てて唇が落とされる。額から瞼、鼻、頬を経て唇へ。啄むような口付けがもたらす脳内への麻酔がびりびりと体を蝕んだ。たくさんの口付けに頭の片隅で警告音が鳴り響いたけれど、僕にはそれを止める事が出来ない。やばいなぁ。君という存在が膨らんで僕を溶かしていく。そうして、僕の心は君だけに囚われていくんだ。駄目だってば、ねぇ、そんな優しいキスの嵐は、僕の判断を鈍らせる。最後の決断を迫られた時、戸惑ってしまうじゃない。既にもう君と他を天秤にかけた時、どちらに振れるか判らないというのに。
『どうして優しくするの。』
ちゅ、ちゅ、と断続的に続いていた口付けがぴたりと止まり、僕の発言に訝しそうな表情をした君は、それでも一瞬で理解したのか、合点がいったとばかりにニィ、と笑ってまたキスの嵐を再開させた。目尻だとか眉間だとか、それこそ顔中の至る所に降り注ぐ決して柔らかいとは言えないカサついた唇が、けれど確実に僕の脳味噌をとろとろにしていく。
『他の何も見えない様にする為だ。』
唇と唇が重なる瞬間の発言に、足元が掬われる感覚。
俺様だけを見ろ、と続けられ、ガラガラと世界が崩れていった。ああ、そうなんだ。僕の心の世界は君の発言にどんどんと浸食されていく。昨日より今日。今日より明日。簡素になっていく心の部屋の最終的な行く末は、君だけが存在するという粗末なエンディングで完成するんだね、きっと。
そんなことさせやしない、なんて言えない。未だ止まない唇の感触にぐらりぐらりと傾く天秤。
落ち着かないのは、慣れないからだけではないのかもしれないけれど、そんなことはもうどうだっていいんだ。
甘いキスの先に見える終幕が絶望だとしても、プラトニックな関係を、だなんてもう願えない事を、知っていた。
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すめ。
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37
性別:
女性
誕生日:
1987/05/02
自己紹介:
Coccoだいすき愛してる。
ばくばくは結婚して第三子おめでたくらいいってる。
と思ってるぐらい頭沸いてる。でも書く小説は全くそんなことはなく、たいがい甘くない。
でも甘いのもあるよ。
ほぼバク獏でたまに他。みたいな感じ。
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