忍者ブログ
9/2の宿主様の誕生日をもちましてバク獏100枚書けたのでサイト閉鎖しました。 二ヶ月弱ですがありがとうございました。
AdminRes
<< 03  2025/04  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30    05 >>
[22] [20] [19] [17] [15] [13] [12] [11] [10] [9] [8
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。





日本の夏は暑い。単純に気温的な問題というよりは、湿気が関わってじめじめと鬱陶しい部分に問題がある。
『ねぇ暑いんだけど。』
小柄な男――エドは怠そうにソファに沈みながらぶつくさと不平を宣った。いつもならばかちりと合わせたスーツやネクタイを、今やだらしなく緩ませてだらけながらそう一人ごちる。冷房の人工的な風が気に入らない、と言ってクーラーの風を遮断してしまった為に、頼るものは自然の風だけとなっている。けれど無風に近い晴れた青空が容赦なく照り付け、窓ガラスから差し込む陽の光に忌々しく舌打ちしながら、エドはうなだれた。夏は嫌いではない。スポーツ万能な彼の趣味の一つにサーフィンがある辺りからも伺えるのだが、生憎と諸外国に比べてじめじめとした気温の日本の夏には馴染めなかったらしい。仕事の関係で各国を転々とする事も多いのだが、今は一身上の都合、日本に滞在しているのだ。おそらくこの夏が終わるまでの間ぐらいはずっとこちらで過ごすであろう。仕方のない事だと割り切って考えてはいるのだが、不平を口にしないとやってられない、といった気持ちが見て取れた。
『何を言う。』
その時だ。そのまま永遠とソファに沈みながらぐちぐち言い続けそうなエドに向かって、男が一人歩いてきた。小柄なエドとは違い細身ではあるが長身で、そしてだらしなく着崩したエドとは対照的にかっちりと黒服を着込んでいる。エドの目の前で立ち止まったその男に暑くないのか、と問いたい衝動に駆られたが、しかし男の顔もうっすらと汗ばんでいる事を確認して愚問だなと取りやめた。暑くない筈がない。窓は開け放っているものの、無風の状態で冷房も何も動いていない室内が、どれほどのものか何て判りきった事だ。
『いきなり押しかけてきたと思ったら、勝手に空調を切ったのは誰だ。』
はぁ、とため息と共に続けられた台詞は、此処が彼の自室である事と、そしてエドの理不尽な行動をも顕著に著していた。
『だって嫌いなんだもの。それにクーラーは身体に悪いよ、亮。』
しかし悪びれもなくエドはそう答えると未だ目の前に突っ立っていた男を見上げた。亮、と呼ばれた長身の男はその答えも想定の範囲内だとばかりに苦笑し、ようやくエドの隣りへと腰を据えた。ソファが2人分の重みに、ぎしりと軋んだ音を立てる。
『確かに身体には悪いがな。』
エドの気紛れで自己中心的な行動も慣れたものだ。最初こそいけ好かない、と反目したものの、慣れてしまえば可愛らしいものだった。もっとも、亮の方が2つ程歳が上だからそう考えられるのかもしれない。
生意気な弟が出来たと思えばそうそう気にはならないものなのだ。
『日本の夏がこんなに過ごしにくいとは思わなかったよ。』
穏やかに構えている亮と対照的に、未だ苛々した面持ちのエドは手でぱたぱたと自身を扇ぎながら亮に不満をぶつける。その台詞に仕方ないだろう、と窘めれば、仕方ないけど、と返答が返ってくる。結局、エド自身も判りきっているのだ。ただ不満を人にぶつける事で少しだけ鬱憤も晴らせる、といったものなだけで。




『ねぇ、日本人はどうやって涼を取るの。』
亮がエドの隣りに座って幾分か立った時だった。エドははた、と気付いたように話題を提示した。暇だったからか、暑さに限界を感じたかは判らないが、とにかく。
『そうだな…肝試しとかではないか。』
その言葉に考えながら亮が示唆すると、エドは見て判る程に眉根を寄せた。馬鹿馬鹿しい、と言わずとも顔に書いてある。非科学的な事はどうやら信じない質らしく、幽霊や心霊的な現象で肝を冷やすようにはできていないらしい。
『他は?』
もっと素晴らしいアイディアはないのか、と暗に含みながら亮を見上げる。隣り同士腰を落ち着かせているとは言ってもやはり元々の身長差があり、エドの目線は上に上がったままだった。
『他…と言われても。』
その射ぬくような視線に苦笑しながら、亮は考えを巡らせた。無茶ぶりは今に始まった事ではないが、此処まで彼にずけずけと物を言う人間も珍しい。まして年下なら尚更だ。そこがエドの良い処ではあるが、この様なケースは今までになかったもので亮は毎度の事ながら少々戸惑ってしまう。友人代表、天上院吹雪等はどちらかと言えば話題を振り撒いてくれる側なので、最悪相槌を打てば事足りる。なのでエドの様なタイプの人間とこうして会話をするという事自体が珍しいのだ。
『ねぇ、何かないの。亮。』
言い淀んでしまった亮に追い討ちをかけるように、エドはその大きな瞳で亮を見据えた。亮は勘弁してくれ、と思わず告げそうになったが、それでは完璧にエドの臍を曲げてしまうと知っていたので寸での処でその言葉は飲み込んだ。
『…俺が寒いギャグでも言えば涼しくなるだろうな。』
変わりに、半ば自棄くそな返答をする。しかし余りにも自棄すぎて、失言だったと口にしてから亮は気付いてしまった。
まさか亮の口から“ギャグ”という単語が出ようとは、さしもの天上院吹雪すら予想出来ないだろう。それほど珍しい発言をしてしまった、という事も亮自身も判っていた事を、勿論エドが気付かない筈がない。先程までより更に大きな瞳で亮を凝視しながら、口はぽかんと開ききっていた。まさか亮が、と言わん許りの表情にしまった、と思ってももう遅い。
『いや、今のは』
『っぷ、あははは』
取り繕おうとした瞬間盛大に笑われ、かあ、と顔がほてるのが知覚され、亮はますます後悔した。
『亮がギャグって、似合わないね。あはは。』
腹を抱えて笑うエドに、軽く殺意すら沸き上がる。元はと言えば勝手に上がり込んできて勝手に空調を切っておきながら、暑い暑いと愚痴るエドが悪いのだ。
『お前…!』
いい加減笑い止め、と亮が言おうとした時だ。ぽすん、と肩に感じたのは頭の感触で、エドがもたれてきたのだ、と知覚したのは少し立ってからだった。




『エド…?』
突然の甘える様な仕草に反論しようとした言葉が引っ込み、今度は亮が目を真ん丸くする番だった。
『はー面白かった。』
こて、と頭を亮に預けたまま満足そうに笑っているエドは先程までの不満は何処へやら、といった感じだ。くっついているせいで確実に離れているより暑いだろうにご機嫌、といった面持ちなのは、亮の珍しい発言がツボにはまったからだろう。
『…暑いんじゃなかったのか。』
『君のおかげで涼しくなったから、いいの。』
ふふ、と笑いながら擦り寄ってくるエドに、ますます暑くなったのは亮だけだった。
PR
コメントする
Name
Title
Color
Mail
URL
Messege
Pass   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
Secret (チェックを入れると管理人だけに表示できます)
トラックバック
この記事にトラックバックする:

Powered by Ninja Blog    photo by P*SWEET    icon by Egg*Station    template by Temp* factory

忍者ブログ [PR]
カレンダー
03 2025/04 05
S M T W T F S
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30
フリーエリア
bannner.jpg


最新コメント
プロフィール
HN:
すめ。
年齢:
37
性別:
女性
誕生日:
1987/05/02
自己紹介:
Coccoだいすき愛してる。
ばくばくは結婚して第三子おめでたくらいいってる。
と思ってるぐらい頭沸いてる。でも書く小説は全くそんなことはなく、たいがい甘くない。
でも甘いのもあるよ。
ほぼバク獏でたまに他。みたいな感じ。
バーコード
ブログ内検索
カウンター
アクセス解析