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9/2の宿主様の誕生日をもちましてバク獏100枚書けたのでサイト閉鎖しました。 二ヶ月弱ですがありがとうございました。
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『いいな、コレ。頂戴。』
エドはお気に入りの玩具を見つけたかのようにきらきらとした瞳で亮を見た。
何事か、と亮はエドの差し出した物を見た瞬間、呆れと諦めにも似た苛立ちが交差する。
『・・・人の鞄を勝手に漁るな。お前はプライバシーに無頓着すぎる。』
はぁ、と溜息を吐いてエドをやんわりと制止したが、そんな事で何かを改めるような性格はしていない。勝手に部屋の中を模索するのは通例だった。初めて部屋に招きいれた時など、家人の承諾も得ぬままに引き出しを開けたりクローゼットを開けたりあまつさえ冷蔵庫まで勝手に開けられていた。お前は遠慮というものがないのか、と怒った処で『いいじゃないか別に減るもんじゃなし。』とあっさりと言われ、亮はこれまでの常識を疑った。以降随所で『日本人の奥ゆかしさをお前に分け与えてやれたら・・・』と苦悩する日々が始まったのだ。




『見られて困るものなんて無いだろう?』
『だから、そういう問題ではない。』
一体今俺は何歳児を相手にしているのだろう。そう思わずには居られないエドの行動には閉口させられる。
元より異国の少年ではあるから、此方よりは開けっ広げな風習を持つのかもしれない。
けれどそれにしたって、エドには少し配慮が足りないのではないだろうか。
勝手に探った鞄の中、彼の愛用の筆入れの中にまで進入し、そして使い勝手の良さそうな万年筆を見つけ、その上それをほしいと強請るのだから。
『それに・・・その万年筆は駄目だ。』
『大切なもの?』
黒にシルバーでシンプルに加工された万年筆は成程、使い込まれている。一目でエドが気に入るほどにシャープな線を持つ文具は、よほど亮の愛用品らしかった。
エドは無神経に見えるけれど、相手が駄目だと言ったものに対してごねるという事はしない。
どうしてもほしいからと駄々をこねる程子どもでも無かったし、そうまでして相手を困らせたくはなかった。
『ああ・・・弟が・・・翔が誕生日祝いにとくれてな。もう大分昔になるが。』
『・・・・・』
『お兄さんにぴったりだと思って、と。何件か回ってくれたそうだ。テストのときは何時もこれを使うと決めている。この万年筆を使っているとテストも不思議と苦にはならないものでな。お守りのようなものだ。』
『・・・い。』
『インクが切れてもペン先がひしゃげても修理して使ってきたから、大分ボロくなってしまったが、俺にはこれ以外を使う気がなくてな。吹雪たちも判ってくれているから筆記具はこれ以外に贈られた事は無いな。』
『・・・ざい。』
『最近でこそあまり会話が無くなってしまったが昔は俺の後ろをちょろちょろとついて回って来てな。2人きりの兄弟だから大切に思っているのだが・・・ん・・・?エド、何か言ったか。』
『・・・って言ってるの。』
『?すまない、もう一度・・・』
『うざいって言ってるだろ!このブラコンが!』
止まらない会話に苛々が頂点になったエドの怒声が部屋に響いた。あまりの声量に亮はびくりと肩を震わせる。エドの目は蔑みに変わり、冷たい風が2人の間をすり抜けた。
『ブラコンすぎる!気持ち悪いんだけど。』
絶対零度の冷気に当てられるが、亮はイマイチこの現状を掴めていなかった。勝手に鞄を漁られ、勝手に筆記具まで漁られ、あまつさえ自分の一番大切にしている万年筆まで欲しがられ。
それでもやんわりと制止し、その万年筆をどうして自分が大切にしているかをかいつまんで説明しただけのつもりだったのだ。
自分が怒る事はあっても、どうして怒られなければいけないのだろうか。
亮の鈍さは国宝級の為、エドがどうしてここまで苛立つのか、理解出来ていないのだ。




『不愉快だ!帰る!』
『もう帰るのか?先刻来たばかりだろう?』
『・・・ブラコンで鈍いなんて救い難いね!D-HEROに蹴られて死んでしまえ!』





ふんっ、とそっぽを向き本当に部屋を出て行かれ、部屋には1人ぽつんと取り残された亮の姿があった。
弟思いも度を越えると救えない。
エドが怒った理由はかわいらしい嫉妬心からなのだ、と誰かから説明されない限り、亮は一生疑問符を浮かべたままなのだろう。



一つの万年筆が招いた痴話喧嘩がどうやって収集付くかは、また別の話。
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目の前に居るのは僕に瓜二つなお前と瓜二つの別人だ。
ややこしさに頭がこんがらがり、大きな理念ががらがらに崩れて気が付けばゲシュタルト崩壊寸前だった。
どんなに此れは誰だと頭を捻っても偽者にしか思えない。目の前のお前は替え玉だ、そうだろう。
だって何処か違う気がする。
何処が違うかは説明できなくても、心が否定する。




『誰だよ、お前。』




『・・・宿主・・・何言ってんだ・・・?』
怪訝な表情で僕をかく乱しようとする偽者に、僕は思い切り冷めた視線を送った。そんな演技に騙される僕じゃない。僕の身体を借りて生まれた化け物の、けれどさらにその身体を借りた化け物め。僕には判っているんだ。この目の前の偽者は、僕を錯覚させてアイデンティティを失わせようとしているのだ。そうでなくともあいつが存在しているおかげで僕の存在は確立されているかも怪しいというのに。
『返してよ、僕の。』
僕の、化け物を。僕の身体を乗っ取った悪の化身を。
僕にとっては邪魔な存在だったけれど、瓜二つの別人よりはきっと必要だ。
『どうしたっつーんだよ・・・!』
困惑極まりない、なんて灰紫の瞳が物語っている。虹彩が瞳孔の開きに比例して肥大し、僕の心理を捕らえようと推し量っている。
『やめてよ、お前じゃないんでしょ・・・!』
頭がこんがらがりそうだ。
その瞳は僕の知っている瞳そのものだったから、白々しいにも程が或る、と一喝するにはダメージが大きい。




その瞳でみつめないで。
全く同じ瞳で見据えないで。
寸分違わぬ粗悪品のくせに。




『・・・宿主!』
ぎゅ、と抱きしめられて喉元まで出かけた言葉がひっこんだ。ぴたりと止んだ僕の抗議にお前は安心させようと僕の背を擦る。優しい手つきで。
『俺様が、別の誰かな訳ねェだろ。落ち着け。』
悪い夢でも見たのか、と続けて、相変わらず僕の背をゆるやかに撫でる手に、意識は冴え渡る。
浅はかなことを口にした。
『そうだね、ごめん。』
これは口にすべきではなかったのだ。僕の心の内での葛藤を、いくら偽者に話したところで正体を明かす筈なんて無いんだもの。
お前はやっぱり偽者だよ。そっくりそのままコピーされた別人だ。
けれど偽者がはいそうですか、なんて言うはずがない。
僕はやっぱり騙されないよ。
お前はやっぱり本物では無いんだ。本物がこんなに優しい筈は無いんだもの。



カプグラ症候群、とふと過ぎる言葉の意味は実の所僕にはよく判らないけれど、この疑念を言葉にするなら、きっとこれが一番しっくりくる。




普段は熱を持たない存在でも、此処に居れば何時でも熱を感じる事が出来る。
ぴたりと同じ平熱を持つ二つの身体は当然のこと、どちらかに熱を奪われるという事はない。
ちょうど36度きっちり、平熱のままお互いに干渉しあったって過不足はない。




『心の部屋って便利だよね。』
くす、と笑みを零してそう告げると、擦り寄る身体が其の言葉にぴくりと反応した。何をするでもなく頻繁に此方へ来てしまうのは、この意味の無い瞬間がとても愛おしいからだ。
ただ抱き合って無意味に時が過ぎていくだけの此の瞬間が堪らなくお気に召しているから。
ぬるいぬるい体温はどちらが高いとか低いとか、そういった格差を齎さない。ひたすら同じ熱を共有し、36度を平行線で保つだけ。
熱を分け与える、なんて出来ないけれど、此のぬるい腕の中は温度差を持たないからこそ心地よい。
『お前、あったかいし。』
『・・・体温一緒じゃねェか。』
何を言ってるんだか、と呆れた口調で返される。声のトーンは君の方が若干低いけれど、質は変わらず同じものだった。勿論寸分狂わず同じ身体なのだから声帯も同じに決まっているけれど、それでも其の声が、ぬるい体温と同じくらい居心地の良さを醸し出している。
君の声すきだなぁ、とぼんやりと思った。
相変わらず熱はちょうど同じだけ、溶け合うように1分の狂いも無い。





たとえば僕の方が体温が高かったなら、お前を暖めてあげられるけれど、
たとえばお前の方が平熱が上だったなら、その熱を分けてもらおうと思うけれど、
生憎と僕達はきっちり36度の体温を上手い具合に保ち続けていた。
どちらがどう、なんて異種の存在でない僕達にはおおよそ無意味な仮定だった。




ぬるいぬるい腕の中。
けれど此のぬるさが齎すゆったりとした心地よさが、浸るには調度良い。
暖かくも冷たくも無い腕に依存して、僕はまたお前に溶かされていく。
お前の存在が僕の心の部屋を温めているから、それで良かった。




『やっぱり、あったかいよ。』



僕、君に後ろからぎゅってされるのが好きなんだ。知ってる?
前からより後ろから。力任せに、でも優しく。
その後耳元で愛を囁いて、ムードたっぷりに舌先で耳元を甘く濡らして。
注文が多くてごめんね。
でもそれだけで後は雪崩れ込むから何でもいいよ。
全て君のお芝居でも構わないよ。




『ねぇ、すきって言って。』




抱きすくめられたまま、何も言わないお前に痺れを切らして催促する。
強く優しく、後ろから。
及第点の抱擁はけれど甘い言葉が無いと嬉しさも半減だ。
僕を上手に騙したいのなら、ねぇ早く。
耳元で、囁いてよ。




『宿主。』




ぞくり、と体中に電流が走って、甘やかな期待が膨れ上がる。
どんなに下手糞な演技だって、どんなに芝居がかった大根役者だって、
無意味だから安心してね。
僕は上手に騙されてあげるから。
お前の言葉は全て信じて、そして全て疑っているから。
ああけれど、騙されたフリじゃないよ。
本当に騙されているんだ。
君のやさしい愛撫全てに。




『・・・愛してる。』




耳元でそう囁いて、そして君は僕の願望通りに耳元を舐め上げる。
ああ、嘘でもいいよ。
今この瞬間だけはとてつもなく幸せだから。世界で一番幸福だから。
例え君が心の中で僕を馬鹿にしてたって、完璧に騙されているから構わない。




愛のこもっていない愛してるも受け止めて、白々しい台詞に浮かされる。



本当に、好きだよ。
本当に、本当に。




【抱いて抱かれて10のお題】 :SILENT SPEECH 10:本当に、好きだよ




閉じた瞳の奥に広がる闇夜と、耳に流れ込む潮騒が心地よい。此処は一体何処なのか、と考えを巡らせるも今に至る前後の記憶が曖昧だ。けれど瞼を持ち上げる事すら億劫で、相変わらず何も見えない状態のまま意識だけが浮遊する。押しては引き、また押し寄せる波の音だけが聴覚を支配していた。ざぁ、と波間に揺れる月明かりが、扇情的に胸中に流れ込む。リアルな虚像が作り上げる景色の中、空に浮かぶ星々の中心で一際存在を主張していた衛星は真丸な形をしていた。今日は満月だ。何も見えない筈の空間にありありと浮かぶこの光景は、まるで夜の砂浜だった。僕は一体今、何処に居るのだろう。
『・・・宿主。』
ざぁん、と波打ったちょうどその時、聞きなれた声が同時に流れ込んできた。聞きなれた声音も、聞きなれた呼称も、これが誰かという事を顕著に指し示す。その呼び方をするのは世界にただ1人、お前だけだから。
『・・・宿主。』
応答が無い事に痺れを切らしたのか、二言目が耳をすり抜けていく。揺れるさざ波が同調し、けれど先刻まで瞼の裏に張り付いていた満月の夜の波打ち際の光景は消え、代わりにお前の顔が映し出された。
『ん・・・。』
その顔が余りにも優しかったから、僕は堪らず目を開けた。億劫に感じていた筈のその行為すらその顔に綻ばされ、白旗を挙げる。目を開けても、広がるのはやはりお前の顔だった。けれど其の奥主張する、蛍光灯のちかちかとした灯りに思わず顔を顰める。其の人為的な光が先刻までの月明かりとは違って不自然だったからだ。一瞬此処は何処だろう、と不安になり辺りを見渡すが、何てことはない。只、僕の心の部屋に居た、というだけだった。
それならばあの景色は何だったんだろうと、手繰ろうとする意識はけれど何処かに浮遊していったまま置き忘れてしまったようだ。一向に思い当たる節が無くて少々混乱していると、頬を緩く抓られる。
『大丈夫か。』
きゅ、と摘まれて密やかな痛みに冴えた脳で、其の言葉の意味を数歩遅れて理解した。大方夢でも見ていたのだろう。自分は何処にも移動した覚えが無かったのだし、案の定目覚めてみれば視界に飛び込んでくる景色は今まで通りだった。こくり、と首を縦に振ると、お前は安心したかの様に摘んでいた指先を離して今度は酷く愛おしそうな手つきで頬を撫でてくる。それはまるで先刻思い描いたさざ波の様に心を震わせて止まない。
『結構長い間気ィ失ってたからな。』
このままじゃ寒いだろうから、と意地の悪い笑みを携えて続けられて、視線を下へと落とすと成程、申し訳程度に掛けられたタオルケットの下は素肌だった。それは何故か、何てわざわざ尋ねずとも答えは1つだった。その意地悪い表情からもまざまざと見せ付けられて、頬に熱が帯びる。
『照れんなって。今更。』
くく、と喉奥で笑われて、気恥ずかしさに視線を宙に漂わせた。一度認識してしまうと鈍い痛みも押し寄せる様だ。意識を手放す程の情事だったのだから、当然ではあるけれど。どうせ声も掠れて思った通りには出せないのだろうと諦め半分に口を開けば、やはり喉をついて出てくる声はしゃがれていた。
『・・・うるさい。』
お前の所為じゃないか、と暗に含んで彷徨っていた視線を戻すと、灰紫の瞳とぶつかった。
その時、其の瞳の奥に揺れる景色に気付く。
先刻まで見たリアルな夜の海そのものの様だった。まるで広大な海を携えたかの様な深いエメラルドグリーンの虹彩が、闇夜の海辺と酷似していた。
ああ、だからか、とすんなりと受け止められる程に綺麗な瞳に吸い込まれ、どうして自分が潮騒を感じていたか理解する。
お前に抱かれたままの身体は其の海を漂流していたのだ。
きっと。




『・・・服着たら、此処で寝てもいい?』
相変わらず掠れた声でそう呟くと、お前はまた優しそうに微笑んだ。其の顔は僕しか知らない秘密の顔だ。溶けるように優しい顔も、解けるような優しい手つきも、僕だけを包み込む大きな海だ。
『ああ。寝ちまえよ。』
ふわ、と頭を撫でられて、心地よさに目を瞑る。まだ服なんて着ていないというのに、既に思考は夢の中だ。
目を閉じればまたも広がる水面に映る満月の夜空が、まだ駄目だと叱咤する僕の思考をもお構いなしに其の波間へと引き込んでいく。
情事の後の気だるい雰囲気と相俟って、ただひたすらに手繰り寄せていく。




そして眠りの海へと引き擦り込まれ、お前の腕の中夢見心地で流されていくんだ。




【抱いて抱かれて10のお題】 :SILENT SPEECH 09:そして眠りの海へ

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プロフィール
HN:
すめ。
年齢:
37
性別:
女性
誕生日:
1987/05/02
自己紹介:
Coccoだいすき愛してる。
ばくばくは結婚して第三子おめでたくらいいってる。
と思ってるぐらい頭沸いてる。でも書く小説は全くそんなことはなく、たいがい甘くない。
でも甘いのもあるよ。
ほぼバク獏でたまに他。みたいな感じ。
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