9/2の宿主様の誕生日をもちましてバク獏100枚書けたのでサイト閉鎖しました。
二ヶ月弱ですがありがとうございました。
『…亮、聞いてる?』
延々と続く愚痴を聞かされている最中。
少しぼうっとしてしまい、意識が消えかけた一瞬を見逃してはもらえなかったようだ。途端ますます不機嫌になる顔にしまった、と思った所でもう遅い。
『聞いている。』
取り繕う様にそう告げても疑り深いこの男には効果が無い。どうだか、と嫌味ったらしく吐き出され、少しばかり頭にくる。毎度毎度愚痴を聞いてやっているではないか、と思わずにはいられない。
プロの世界は色々と大変だ。気苦労も多くなれば自然と貯蓄されていくストレス。我が儘で傍若無人な男ではあるけれど、意外と脆く繊細だと知ってしまってからは捌け口になれば、とたまにこうして話を聞いてやる役を受け持った。大人びて見える時もあるけれど、自分の弟よりもまだ一つ分学年が下なのだ。気紛れで生意気で、猫の様な性格。エド・フェニックスの名は世間的にも有名であり、その重圧はいくら彼とはいえやはり重くのしかかる物だろう。だから少しでも、と随分らしくない役を買って出たのは紛れも無く自分から。とは言っても、不躾な反応にはかちんときてしまう。
『いいよ、もう。』
けれどふん、とそっぽを向く行動はやはり子どもじみていて、放っておけなくなるのも確かだ。俺にしては随分と甘やかしているな、と自重ぎみに思いながら、銀糸の髪に手を伸ばした。
自分の弟にだって、こんなことはしない。ならば何故か、と問われれば、この気紛れな猫が、意外とお気に召したから。
『悪かった。機嫌を直せ。』
す、と頭を撫でる。子ども扱いするな、と怒られるだろうかと思ったけれど、意外と不快ではなかったのか成すがままの状態で、エドはこちらに向き直る。
『亮ってやっぱりお兄さんなんだな。』
受け流し方が手慣れているね、と目を細めて笑う。機嫌はどうやら完全にでは無いものの、大方直ったらしい。延々と愚痴を吐き出してすっきりしていたのも原因だろう、苛々は随分と収まったようだ。全く、この気紛れな猫を満足させるのは骨が折れる。
『翔にはしてやった事がないけどな。』
ふとそう口にしてみれば、今度は意外そうに目を見開かれた。てっきり慣れた行為だと思ったのであろうが、生憎と弟の頭を撫でてやった覚えは無い。
『それ処か、愚痴を聞かされた事もなかったな。あいつとはあまりそういった類の話はしてこなかった。』
今思えば一種のコミュニケーション不足なのだろう。どうにも近付き方がうまくいかなくて、時たまに自分と血をわけた弟だというにも関わらず壁を感じる事がある。塩梅がうまくいかないとはこの事だ。
『へぇ、もったいない。僕が弟だったら毎日愚痴を言わせてもらうのに。』
ふふ、と笑って擦り寄る姿はまさに猫だ。もっと、の無言の催促が、気紛れさを如実に著す。だから一層手に意識を集中させてやんわりと撫でれば、満足そうな吐息。ご機嫌ななめはもう完全に払拭されたらしい。
しきりに、勿体ないなぁと呟きながら、変わってほしいくらいだと笑う。けれど近すぎると逆に上手くいかない気がして、俺は首を傾げた。こうして気兼ねなく触れられるのもきっと、赤の他人だからだ。お前が仮に弟ならば、きっとこうして話もしないだろう。
今ぐらいの位置関係が一番好ましいと思うのも、この気紛れを飼い慣らそうとは思わないから。たまにこうして話を聞く為だけに会うこの関係が、多分最上の友好条約だろう。
『お前とは今のままが一番いい。』
それに、毎日毎日愚痴を聞かされる身にもなれよ、と茶化して、もしもの仮定を思い浮かべる。いくら何でもそれでは自分が持たないだろう。振り回されるのが目に見えているな、と思えば、大方お前もそう思ったのだろう。頭の回転の早い奴だからその辺りはわざわざ説明せずとも存分に伝わるのだ。
『それもそうか。…それに、』
エドがふと考えを止めた、と知覚した瞬間だった。
意味ありげに途切れた言葉の切れ端と企みを含んだ大きな碧眼が、牙を向く。
会話の最中も途切れる事なく頭を撫でていた手を捕まれたと思った刹那、目の前に広がるのは不敵な微笑みを浮かべた猫の顔。
『こういう事も、できないし?』
ちゅ、と唇に何かが触れたと知った時には、既に離れた後だった。
『こういう事、をしたのははじめてだな。』
驚き、というよりは、やられた、と感じた方がずっと大きい。何と言っても気紛れな猫なのだから、この口付けもきっと気紛れにすぎない。
『僕もはじめてだよ。』
さらりと言ってのけると、掴んでいた手を離された。飼い慣らそうとは思わないけれど、こうして手玉に取られるのは、やはり年上の威厳としては癪に触る。きつく躾てやるべきなのだろうか、と思った瞬間に、
『君は僕を甘やかすべきだね。』
なんて、先手を打たれては成す術も無い。
『もう十分だろう。』
はぁ、とため息を吐けば、してやったりな笑顔を向けられて、全く、腹が立つにも程がある。
気紛れな猫の相手をするのは、やはり、骨が折れる仕事だ。
銀糸の髪にもう一度触れて、もっと、の合図に苦笑しながら、こうして今日という一日が緩やかに過ぎてゆく事を、何故か、心地良く思いながら。
空気を読めないやつだ。授業開始からおよそ30分、唐突にぎゅぅ、と後ろから抱き締められてびくり、と反応する体。それと同時に上摺る心で僕はそう思った。僕自身も周囲から常日頃言われている言葉であるけれど、多分僕よりずっとこいつは空気を読めない。否、読めないのではなく読まないのかもしれないね。そう思わずにはいられない程突然の抱擁だった。
『急に何、なの。』
しん、と静まり返ったこの状況では、例えものすごく小さな声でしゃべったとしてもきっと響いてしまうであろうから、口には出さずに心中呟く。
心の中での発言も君には十二分に届くのだから、その点では便利なのかもしれない。
学校、教室、授業中。意思を伝えるという事は、早々単純な事ではない。カリカリとノートを走るシャープペンシルの音と、無言で描きなぐられていくチョークによる言葉の羅列。私語厳禁の今この瞬間にまさか抱き締められている人間がいるとは誰も思いやしないだろう。
当事者同士しかしらない秘密の抱擁が、落ち着け、と言い聞かせるにも関わらずざわざわと僕の心を波立たせる。
『気にしなきゃいい。』
そんな僕の気持ちをきっと知っている君の発言が脳内に甘く響いた。後ろからの抱擁では顔が見えないけれど、きっと僕の大嫌いな、意地悪な顔で笑っているんだろうな、と知覚する。
先刻からぴたりと止まってしまった僕の手は、黒板を埋めていくスピードにもう追い付けないだろう。一人取り残される感覚が一番嫌いだ、という事を知りながら平気でこういう事をするんだ。悪魔、人でなし、ばか、きらい。なんでこんなことするの。幽霊みたいな存在のくせして、抱き締めてくる腕の熱っぽさはやけにリアルだ。他人には見えない曖昧な存在のくせをして、擦り寄る体の体温は誰よりも温かい。
ああ、君が、気にしなきゃいいなんて言うから、気にしないつもりの自分の体が言う事を聞かない。例えばこれが自分の部屋なら、誰もいない2人だけの空間なら、気にもならないのに。
『、だからに決まってんだろ』
す、と耳元に寄せられて、僕にしか聞こえない声で囁く君は、楽しんでいる。 こいつは確信犯だ。空気を読まないのも全部僕を困らせたいからなだけ。2人きりの時には驚く程何もしてこないというのに、こんなタイミングで、なんて、ああ、弄ばれるにも程がある。
早く過ぎ去れと思う自分とこのままでいたい自分との葛藤も、きっとこいつには筒抜けだ。
頭の中が浸食されている状態で落ちていくのは簡単な事。
諦めて委ねるしかもう、選択肢は存在しないのだ。
授業終了まであと、およそ、25分。
「なァ、宿主。」
1トーン低くそう呼べば、反射的にびくりと肩を震わせる惨めな宿主様。
きっといつもの理不尽な暴力を思い出して恐怖に駆られているに違いない、と思えば益々惨めに見えて知らず釣り上がる口角。
けれど恐怖に支配されながらも、プライドが許さないのかすぐさま平然を保とうとする姿が見て取れた。無駄な足掻きだな、と心中嘲り笑いながら沸き起こる、どうしようもない支配欲。今この瞬間、とてもお前を踏み躙りたい。
「何怖がってンの?」
今更だよなァ、と揶揄すれば、反抗的な瞳が此方を向いた。手に取るように判る怯えた心と裏腹の抗いが、紛れもない快感に置換される、という事を知らないのだろうか。健気だねェ、御主人様。健気で、そしてとても愚かだ。
「俺様程、お前に優しい男はいねェと思うけど?」
すい、と頬をなぞりながら猫撫で声で機嫌を伺うフリをした。今の所は自分にとって一番大事なモノなのだから、間違っては居ない。自分自身でこいつに傷付けるのは容易くて、自分以外に傷つけさせるのは腹が立つ。
言うならばお前は大切な玩具だ。
自分の手で壊したいという子ども染みた思想を、お前は理解できるのだろうか。踏み躙る事を想起して恍惚に浸れるのは、お前が未だに抗う事を忘れないからだ。抵抗すればする程、追い詰めて打ち砕きたい思いに囚われる。
愚かで愛おしい御主人様よ、これを愛と言わずして、何と言うのだろう。
「早く俺を受け入れろ。」
拒絶に快感を覚えて膨らむ愛情は、留まる事を知らないから。
拒絶する意識すら剥ぎ取れたそのときに、はじめてお前はこの愛情を理解するのだ。
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プロフィール
HN:
すめ。
年齢:
37
性別:
女性
誕生日:
1987/05/02
自己紹介:
Coccoだいすき愛してる。
ばくばくは結婚して第三子おめでたくらいいってる。
と思ってるぐらい頭沸いてる。でも書く小説は全くそんなことはなく、たいがい甘くない。
でも甘いのもあるよ。
ほぼバク獏でたまに他。みたいな感じ。
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