9/2の宿主様の誕生日をもちましてバク獏100枚書けたのでサイト閉鎖しました。
二ヶ月弱ですがありがとうございました。
[1] [2]
『君のそういう処が駄目だと言ってるんだ!』
突然荒々しく声をあげられ、亮は辟易した。目下エドの癇癪に付き合わされている最中である。いきなり家に乗り込んできたかと思えば、最初から怒り浸透中の様子だった。何故か、と尋ねればこうだ。今日はエドのたまにしかない貴重な休みで、更に亮もオフの日だ。なのに何故訪ねてこないのかと、要するにそういう事だった。
『お前の事を考えてだな・・・』
プロとして対戦するだけでなく、毎日雑誌や撮影等スケジュール過密なエドは“たまにあるオフは寝たい”とゆっくり寝たい”と常々漏らしていた。
それを汲み取り、亮としては敢えて訪ねる等はせずにゆっくり寝かしてやろうというつもりだったのだ。
しかし、エドにはそれが不服だったらしい。
『お前は僕に会いたくなかったのか?』
眉を顰めながら不服そうにエドはそう呟いた。亮も最近知った事だが、エドはなかなかに束縛が強い。物事にあまり固執しないタイプだとばかり思っていたが、どうやらそれは上辺だけの様だ。父親を早くに亡くしたからか、甘え上手では無い割にこういった我が儘を時折発揮する。これもエドなりの甘えなのだろう、と亮も判っているからこそ強く出れない。
『まぁ、会いたく無かったといえば嘘になるが…』
言い淀み困った表情を浮かべる亮の心中は、勿論エドだって承知の上だった。会いたくない筈がない。けれどエドの休暇を優先し、気を遣っているのだ。
それでも、エドとしてはそれが不服だった。
『まどろっこしい。』
ぴしゃりと撥ね付け、エドはむすりとした顔のまま亮を見据える。亮は優しい。ヘルカイザーの異名を持ち、無表情で無愛想にみえるけれど、いつも周囲に気を配る事の出来る男だ。
けれどそれが、エドには気に入らなかった。
『会いたかったと一言いえば、許してやるってのに。』
ふん、とそっぽを向きエドはそう呟いた。
いつも自分の意見を通して生きてきたエドにとっては、亮の優しさは緩く柔らかい。もう少し強く出られた方がこちらとしてもやりやすい、とエドは思う。要するに多少の語弊はあるかもしれないが、エドとしても束縛されたいのだ。
優しく甘い、恋人に。
『そうか。』
ようやくエドの言わんとしている事を察知した亮は、少しだけ顔を綻ばせながら、エドのターコイズの瞳を覗き込む。
身長差のせいで幾分か屈み込まなければならなかったが、そんな事はもう気にもならなかった。
『会いたかった。』
『・・・最初からそう言えば良かったんだよ。』
ようやく機嫌を直したエドに、亮はもう一度口許を綻ばせる。
その顔はヘルカイザーと畏怖される男のものではなく、普通の青年の顔つきだった。
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『いいな、コレ。頂戴。』
エドはお気に入りの玩具を見つけたかのようにきらきらとした瞳で亮を見た。
何事か、と亮はエドの差し出した物を見た瞬間、呆れと諦めにも似た苛立ちが交差する。
『・・・人の鞄を勝手に漁るな。お前はプライバシーに無頓着すぎる。』
はぁ、と溜息を吐いてエドをやんわりと制止したが、そんな事で何かを改めるような性格はしていない。勝手に部屋の中を模索するのは通例だった。初めて部屋に招きいれた時など、家人の承諾も得ぬままに引き出しを開けたりクローゼットを開けたりあまつさえ冷蔵庫まで勝手に開けられていた。お前は遠慮というものがないのか、と怒った処で『いいじゃないか別に減るもんじゃなし。』とあっさりと言われ、亮はこれまでの常識を疑った。以降随所で『日本人の奥ゆかしさをお前に分け与えてやれたら・・・』と苦悩する日々が始まったのだ。
『見られて困るものなんて無いだろう?』
『だから、そういう問題ではない。』
一体今俺は何歳児を相手にしているのだろう。そう思わずには居られないエドの行動には閉口させられる。
元より異国の少年ではあるから、此方よりは開けっ広げな風習を持つのかもしれない。
けれどそれにしたって、エドには少し配慮が足りないのではないだろうか。
勝手に探った鞄の中、彼の愛用の筆入れの中にまで進入し、そして使い勝手の良さそうな万年筆を見つけ、その上それをほしいと強請るのだから。
『それに・・・その万年筆は駄目だ。』
『大切なもの?』
黒にシルバーでシンプルに加工された万年筆は成程、使い込まれている。一目でエドが気に入るほどにシャープな線を持つ文具は、よほど亮の愛用品らしかった。
エドは無神経に見えるけれど、相手が駄目だと言ったものに対してごねるという事はしない。
どうしてもほしいからと駄々をこねる程子どもでも無かったし、そうまでして相手を困らせたくはなかった。
『ああ・・・弟が・・・翔が誕生日祝いにとくれてな。もう大分昔になるが。』
『・・・・・』
『お兄さんにぴったりだと思って、と。何件か回ってくれたそうだ。テストのときは何時もこれを使うと決めている。この万年筆を使っているとテストも不思議と苦にはならないものでな。お守りのようなものだ。』
『・・・い。』
『インクが切れてもペン先がひしゃげても修理して使ってきたから、大分ボロくなってしまったが、俺にはこれ以外を使う気がなくてな。吹雪たちも判ってくれているから筆記具はこれ以外に贈られた事は無いな。』
『・・・ざい。』
『最近でこそあまり会話が無くなってしまったが昔は俺の後ろをちょろちょろとついて回って来てな。2人きりの兄弟だから大切に思っているのだが・・・ん・・・?エド、何か言ったか。』
『・・・って言ってるの。』
『?すまない、もう一度・・・』
『うざいって言ってるだろ!このブラコンが!』
止まらない会話に苛々が頂点になったエドの怒声が部屋に響いた。あまりの声量に亮はびくりと肩を震わせる。エドの目は蔑みに変わり、冷たい風が2人の間をすり抜けた。
『ブラコンすぎる!気持ち悪いんだけど。』
絶対零度の冷気に当てられるが、亮はイマイチこの現状を掴めていなかった。勝手に鞄を漁られ、勝手に筆記具まで漁られ、あまつさえ自分の一番大切にしている万年筆まで欲しがられ。
それでもやんわりと制止し、その万年筆をどうして自分が大切にしているかをかいつまんで説明しただけのつもりだったのだ。
自分が怒る事はあっても、どうして怒られなければいけないのだろうか。
亮の鈍さは国宝級の為、エドがどうしてここまで苛立つのか、理解出来ていないのだ。
『不愉快だ!帰る!』
『もう帰るのか?先刻来たばかりだろう?』
『・・・ブラコンで鈍いなんて救い難いね!D-HEROに蹴られて死んでしまえ!』
ふんっ、とそっぽを向き本当に部屋を出て行かれ、部屋には1人ぽつんと取り残された亮の姿があった。
弟思いも度を越えると救えない。
エドが怒った理由はかわいらしい嫉妬心からなのだ、と誰かから説明されない限り、亮は一生疑問符を浮かべたままなのだろう。
一つの万年筆が招いた痴話喧嘩がどうやって収集付くかは、また別の話。
嘘をついたら地獄いき。
閻魔様に怒られる。
今日は免除。今日だけ免除。
『4/1はエイプリルフール。』
カレンダーを眺めてぽつりと呟いた。エイプリルフールと呼ばれる、茶目っ気たっぷりの特別な日がそういえば今日なのだと寸での所で気付いたからだ。しかし祝日という訳でもない。振り返って思い起こしてもたいした話は一つも思い浮かばない。どうせなら祝日にするべきだ、と当然の欲求が鎌首を擡げる。もっとも、自分には休みらしい休みは用意されていないのだけれど。
『嘘でもつこうかな。』
僕の隣で同じようにカレンダーを覗き込んだ男に向かって、器用に唇の端をきゅ、と結んで微笑みかけた。
『先に言ったら意味が無いだろう。』
考えてから口にだせ。そう言いたげな哀れみを込めた目で見られる。心外だ。
気付かない相手にしか通用しない、あまり意識しない「嘘つき記念日」は、嘘をついても良い日ではあるけれど、嘘を必ずつかなければいけないという訳でも無くて、必要というよりは寧ろ戯れ事のようだ。
この記念日を作った人はいったいどういう面持ちで、考えついたんだろうか。
『そんなの判らないだろ。嘘をついたかついてないかなんて僕にしか判らない事もある。』
僕は努めてからかい半分の口調で告げる。事実無根の作り話や空想でなくて例えばほら、胸の内だとか。
日頃思い描く事と反対の事を言っているのか、本音なのか、なんて其処の所は僕しかしらない事実だとか。
『例えば?』
隣で無表情のまま尋ねる君は、僕の意図を推し量ろうとしていたけれど。
君如きに僕の本音がわかるのかな、なんて。
『亮の事、好きだよ。――とかね。』
エイプリルフールだからこそ伝える事が出来る台詞を推し量る術はあるのだろうか。
僕の台詞が嘘か真か、なんて、知り得もしないのだし。
なんて甘美な嘘つき記念日。
この記念日を作った人もきっと想像出来なかっただろうな。
視界に入っていない事が悔しいからなんだよ。
無理矢理かもしれないけれど、仕方ないだろう。
『ねぇ、亮。聞いてる?』
テレビのブラウン管に視線を持ってかれちゃって、すんごく暇なんですけど。
そんなに面白いか?この番組。出来レースなんじゃないの、と疑いたくなる程拮抗したデュエルに最初は僕も熱心に見ていたけれど、如何せん弱すぎて話にならない。飽き性の僕は開始10分で見る気を無くし、デュエル馬鹿な君は何時までだって真剣だ。
『亮!聞いているのか?』
苛々が募って仕方ない。この僕を無視するとはいい度胸だ。つまらない、つまらない。どうして僕を見ない、とまるで妬いているかの様な感情に更に増す苛々。
テレビに妬くなんて、どういう事だろう。もしかして、もしかしなくても、振り回されてる?
なんて思って亮の顔を覗き込めば、あからさまに嫌な顔一つ。いくら僕でも傷つくんですけど。
慰謝料請求してやろうか、なんて。
『・・・今良い所だから、もう少し待て。』
何それ。何それ。亮のくせに生意気だ。
あからさまな物言いに僕の苛々は頂点に達する。
まぁいいさ。見てろ、この馬鹿。
がしっと亮の顎を両手で捕まえて、いきなりの行動にびっくりして見開いてる目を睨み付けて、
『このデュエル馬鹿!』
頂点の憤りをぶつけて、何か言おうとしてちょっとだけ開いた唇に噛み付いた。
割って入って歯列をなぞって、抵抗しようとする舌を絡め取る。
これなら僕にしか集中出来ないだろう?と、我ながらナイスアイディアにほくそ笑む。
唇離したらやっぱり盛大に怒られたけど、苛々もどこか吹き飛んだし、うん、満足。
これからもこの方法でいこうかなって呟いたらげんなりした亮の顔。
ああそうそれそれ。その顔いいね。振り回されてますってその顔、お前によく似合うよ。
僕を振り回そうだなんて、亮の分際で生意気だもの、ね。
外気は肌を刺す様に冷たくて、けれど其れすら心地良く感じる。整わない息はしっとりとした熱っぽさを帯びていて弱々しく、鬱陶しい限りだ。今は一体何時なのだろうか。ふと気になったけれども、閉じた瞳から伺える筈も無い。まして寝ているのか、目を閉じただけなのかの境界線すら曖昧だ。ああ、体が酷くだるい。大方季節の移り変わりに体がついていかず、熱を拗らせたのだろう。体調管理が出来ないなんて、プロ失格だ。情けない、と自己嫌悪に陥る。その時だ。息を詰めると途端ひんやりとした感触を額に感じ、うっすらと目を開けた。
『斎王?』
感触は手の平で、そんな事をするのは斎王だけだと思い、確認もせずそう呟いた。すると、どうだろう。不機嫌な声が返ってきて、僕は思わず思い切り目を開けた。
『残念だが外れのようだな。』
覗き込まれて居るからか、何時もより顔が近い。不本意だが何時もは身長差が邪魔をするから。
それにしても、まさか君がそんな事をするとは思いもしなかった。だって、どうして君がそんな事をすると思う?
『君のガラじゃないからね。』
ヘルカイザー。安直なネーミングセンスだね、と言えばまったくだ、とさして気にも留めずにそう言っていたのを思い出す。冷酷で無慈悲、そういうところが気に入って僕の方から近付いた。君から僕に近づくなんて事は、今の今まで有り得なかった。
だから、そんな君がまさかこのタイミングでやってくると思う?
呆れる程ガラじゃないよ。
『それは悪かったな。』
そう言うと額からするりと降りた手が頬を撫でた。ねぇどうして今日はそんなに優しいんだ。君らしくないよ、と言いかけて、けれど寸での所で止めておいた。いつもの君、をそういえば僕は知っているのだろうか。デュエルのとき、たまに会うわずかな時間、僕が知っている君なんて所詮そんなものなのだ。僕が知っている君はとても非情な男だけれど、僕の知らない君は其処此処に存在していて、そうして今目の前に居るのは僕の知らない君なんだ。
『、悪くは、ないよ。』
頭の中で結論付けて、僕はやんわりと受け入れる。それならば何も問題は無いんだもの。優しい君には少し違和感を感じるけれど、悪くはない。触れた手のひらも冷たくて心地よいから、臍を曲げて離れていかれちゃ物足りない。悪くないよ。君が僕の知らない面を持っていようがいまいが、人間なんてそんなものなのだし。
『なら良い。』
ふ、と笑うその顔はやっぱりいつもと一緒だ。
けれどいつもより幾分か柔らかい雰囲気に、君も人の子だなぁと場違いなことを考えていると、
『それにしてもお前が風邪をひくとは、お前も人の子だな。』
なんて、同じ考えを口に出す君に、僕は苦笑した。
『君のほうこそ。』
ああ、風邪もたまにはいいかな、なんて。
冷たい指先の心地よさに急速に眠気に襲われて、夢見心地のままそう思った。
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プロフィール
HN:
すめ。
年齢:
37
性別:
女性
誕生日:
1987/05/02
自己紹介:
Coccoだいすき愛してる。
ばくばくは結婚して第三子おめでたくらいいってる。
と思ってるぐらい頭沸いてる。でも書く小説は全くそんなことはなく、たいがい甘くない。
でも甘いのもあるよ。
ほぼバク獏でたまに他。みたいな感じ。
ばくばくは結婚して第三子おめでたくらいいってる。
と思ってるぐらい頭沸いてる。でも書く小説は全くそんなことはなく、たいがい甘くない。
でも甘いのもあるよ。
ほぼバク獏でたまに他。みたいな感じ。
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