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9/2の宿主様の誕生日をもちましてバク獏100枚書けたのでサイト閉鎖しました。 二ヶ月弱ですがありがとうございました。
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『日本人てロマンチストで他力本願だね。』
ふ、とエドは小馬鹿にした様に笑った。けれど勿論実際に馬鹿にしている訳ではない。あくまで其れが彼のスタンスではあるが、このような物言いを快く思わない人間も多かった。
『いきなり何だ。』
しかし投げ掛けられた台詞に、亮は特に何の感慨もなく無表情で答える。唐突な台詞にも不躾な物言いにも慣れていた。エドは歯に衣着せる、という事をしない。素直だと言えば聞こえも良いが、詰まる処率直な上に他人にどう思われようが構わない性質なだけだ。それを亮もきちんと理解していたので、特に不満に思う事なくさらりと受け流す。大人で最良の対応だった。もっとも、だからこそエドは亮とよく行動を供にしていたのだが。




『今日、タナバタってやつなんだろう?十代に聞いた。』
なるほどそれならば合点がいく、と亮は思った。十代、と呼ばれた男はそういった行事ごとが何よりもすきそうだし、おまけに周囲も巻込んでお祭騒ぎを考えるような人間だ。大方そういった行事ごとに興味もないエドをも巻込んで、今日という一日を大いに盛り上げようという魂胆なのだろう。
『短冊でも貰ったか?』
亮はそう言うとちら、とエドを覗き込んだ。十代の考える事だ――おおよそ祭り好きな吹雪や剣山、その他諸々も悪乗りし笹の十本や二十本ぐらい何処からか調達してきているだろう――願い事を書くための短冊位は託けられているに違いない、といった亮の読みは完璧だった。御名答、とばかりにエドは亮の目前に、長方形に切り揃えられた色紙をぴらぴらとはためかせる。きっと俺の分も用意されているだろうな、ということは亮の想像に容易い。
『十代に限らず日本人って好きだよね、こういう馬鹿みたいなの。』
エドは呆れた様に笑い、何も書かれていない短冊に目を通した。およそ願い事を誰かに叶えてもらおうという他力本願な考えのないエドらしく、渡されたはいいが何かを書くつもりは無いらしい。らしいな、と亮は思ったが口には出さなかった。亮もまた、エド程では無いとはいえ空に向かってお願い事をする、だなんてロマンチックなことはしない主義だ。願ったものは自分の力で手に入れてきたし、そして此れからもそのつもりだ。しかしだからと言って十代達が他力本願な訳では無く、単純に騒ぎたいだけだということも知っている。
『たまには良いだろう、付き合ってやれ。』
だから、きっと喜ぶ、と付け加えて、亮はエドを促した。案外情に熱い部分もあるエドは頼まれ事は断れないらしい、という事を把握していたからだ。弱みに付け込む様であるが、たまには良いだろう、と亮はもう一度こっそりとそう思った。何しろ今日は七夕、なのだから。自分の力で手に入る物事は願わないにしても、皆が今日という日を楽しめればそれに越した事は無い。
『…判ってるさ。』
案の定渋々ながらも了承したエドは、短冊を見つめながらぼそりと呟いた。勿論十代から短冊を受け取っている時点で断りきれなかったのだから、参加は与儀のない物だったのだ。
『雨が降りますように、て書こうか。』
『天の邪鬼なやつだな。』
せめてもの反抗だろうか、可愛げのない事を言うエドに亮は思わず苦笑した。
今夜は天の河も綺麗に見えるだろう晴天だ。
エドの願い事は叶わないだろうが、本心でない事も判りきっていたので構わないであろう。




7月7日――七夕という特別な日も騒がしく過ぎていくであろう事は、容易に想像できた。
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日本の夏は暑い。単純に気温的な問題というよりは、湿気が関わってじめじめと鬱陶しい部分に問題がある。
『ねぇ暑いんだけど。』
小柄な男――エドは怠そうにソファに沈みながらぶつくさと不平を宣った。いつもならばかちりと合わせたスーツやネクタイを、今やだらしなく緩ませてだらけながらそう一人ごちる。冷房の人工的な風が気に入らない、と言ってクーラーの風を遮断してしまった為に、頼るものは自然の風だけとなっている。けれど無風に近い晴れた青空が容赦なく照り付け、窓ガラスから差し込む陽の光に忌々しく舌打ちしながら、エドはうなだれた。夏は嫌いではない。スポーツ万能な彼の趣味の一つにサーフィンがある辺りからも伺えるのだが、生憎と諸外国に比べてじめじめとした気温の日本の夏には馴染めなかったらしい。仕事の関係で各国を転々とする事も多いのだが、今は一身上の都合、日本に滞在しているのだ。おそらくこの夏が終わるまでの間ぐらいはずっとこちらで過ごすであろう。仕方のない事だと割り切って考えてはいるのだが、不平を口にしないとやってられない、といった気持ちが見て取れた。
『何を言う。』
その時だ。そのまま永遠とソファに沈みながらぐちぐち言い続けそうなエドに向かって、男が一人歩いてきた。小柄なエドとは違い細身ではあるが長身で、そしてだらしなく着崩したエドとは対照的にかっちりと黒服を着込んでいる。エドの目の前で立ち止まったその男に暑くないのか、と問いたい衝動に駆られたが、しかし男の顔もうっすらと汗ばんでいる事を確認して愚問だなと取りやめた。暑くない筈がない。窓は開け放っているものの、無風の状態で冷房も何も動いていない室内が、どれほどのものか何て判りきった事だ。
『いきなり押しかけてきたと思ったら、勝手に空調を切ったのは誰だ。』
はぁ、とため息と共に続けられた台詞は、此処が彼の自室である事と、そしてエドの理不尽な行動をも顕著に著していた。
『だって嫌いなんだもの。それにクーラーは身体に悪いよ、亮。』
しかし悪びれもなくエドはそう答えると未だ目の前に突っ立っていた男を見上げた。亮、と呼ばれた長身の男はその答えも想定の範囲内だとばかりに苦笑し、ようやくエドの隣りへと腰を据えた。ソファが2人分の重みに、ぎしりと軋んだ音を立てる。
『確かに身体には悪いがな。』
エドの気紛れで自己中心的な行動も慣れたものだ。最初こそいけ好かない、と反目したものの、慣れてしまえば可愛らしいものだった。もっとも、亮の方が2つ程歳が上だからそう考えられるのかもしれない。
生意気な弟が出来たと思えばそうそう気にはならないものなのだ。
『日本の夏がこんなに過ごしにくいとは思わなかったよ。』
穏やかに構えている亮と対照的に、未だ苛々した面持ちのエドは手でぱたぱたと自身を扇ぎながら亮に不満をぶつける。その台詞に仕方ないだろう、と窘めれば、仕方ないけど、と返答が返ってくる。結局、エド自身も判りきっているのだ。ただ不満を人にぶつける事で少しだけ鬱憤も晴らせる、といったものなだけで。




『ねぇ、日本人はどうやって涼を取るの。』
亮がエドの隣りに座って幾分か立った時だった。エドははた、と気付いたように話題を提示した。暇だったからか、暑さに限界を感じたかは判らないが、とにかく。
『そうだな…肝試しとかではないか。』
その言葉に考えながら亮が示唆すると、エドは見て判る程に眉根を寄せた。馬鹿馬鹿しい、と言わずとも顔に書いてある。非科学的な事はどうやら信じない質らしく、幽霊や心霊的な現象で肝を冷やすようにはできていないらしい。
『他は?』
もっと素晴らしいアイディアはないのか、と暗に含みながら亮を見上げる。隣り同士腰を落ち着かせているとは言ってもやはり元々の身長差があり、エドの目線は上に上がったままだった。
『他…と言われても。』
その射ぬくような視線に苦笑しながら、亮は考えを巡らせた。無茶ぶりは今に始まった事ではないが、此処まで彼にずけずけと物を言う人間も珍しい。まして年下なら尚更だ。そこがエドの良い処ではあるが、この様なケースは今までになかったもので亮は毎度の事ながら少々戸惑ってしまう。友人代表、天上院吹雪等はどちらかと言えば話題を振り撒いてくれる側なので、最悪相槌を打てば事足りる。なのでエドの様なタイプの人間とこうして会話をするという事自体が珍しいのだ。
『ねぇ、何かないの。亮。』
言い淀んでしまった亮に追い討ちをかけるように、エドはその大きな瞳で亮を見据えた。亮は勘弁してくれ、と思わず告げそうになったが、それでは完璧にエドの臍を曲げてしまうと知っていたので寸での処でその言葉は飲み込んだ。
『…俺が寒いギャグでも言えば涼しくなるだろうな。』
変わりに、半ば自棄くそな返答をする。しかし余りにも自棄すぎて、失言だったと口にしてから亮は気付いてしまった。
まさか亮の口から“ギャグ”という単語が出ようとは、さしもの天上院吹雪すら予想出来ないだろう。それほど珍しい発言をしてしまった、という事も亮自身も判っていた事を、勿論エドが気付かない筈がない。先程までより更に大きな瞳で亮を凝視しながら、口はぽかんと開ききっていた。まさか亮が、と言わん許りの表情にしまった、と思ってももう遅い。
『いや、今のは』
『っぷ、あははは』
取り繕おうとした瞬間盛大に笑われ、かあ、と顔がほてるのが知覚され、亮はますます後悔した。
『亮がギャグって、似合わないね。あはは。』
腹を抱えて笑うエドに、軽く殺意すら沸き上がる。元はと言えば勝手に上がり込んできて勝手に空調を切っておきながら、暑い暑いと愚痴るエドが悪いのだ。
『お前…!』
いい加減笑い止め、と亮が言おうとした時だ。ぽすん、と肩に感じたのは頭の感触で、エドがもたれてきたのだ、と知覚したのは少し立ってからだった。




『エド…?』
突然の甘える様な仕草に反論しようとした言葉が引っ込み、今度は亮が目を真ん丸くする番だった。
『はー面白かった。』
こて、と頭を亮に預けたまま満足そうに笑っているエドは先程までの不満は何処へやら、といった感じだ。くっついているせいで確実に離れているより暑いだろうにご機嫌、といった面持ちなのは、亮の珍しい発言がツボにはまったからだろう。
『…暑いんじゃなかったのか。』
『君のおかげで涼しくなったから、いいの。』
ふふ、と笑いながら擦り寄ってくるエドに、ますます暑くなったのは亮だけだった。




『…亮、聞いてる?』
延々と続く愚痴を聞かされている最中。
少しぼうっとしてしまい、意識が消えかけた一瞬を見逃してはもらえなかったようだ。途端ますます不機嫌になる顔にしまった、と思った所でもう遅い。
『聞いている。』
取り繕う様にそう告げても疑り深いこの男には効果が無い。どうだか、と嫌味ったらしく吐き出され、少しばかり頭にくる。毎度毎度愚痴を聞いてやっているではないか、と思わずにはいられない。
プロの世界は色々と大変だ。気苦労も多くなれば自然と貯蓄されていくストレス。我が儘で傍若無人な男ではあるけれど、意外と脆く繊細だと知ってしまってからは捌け口になれば、とたまにこうして話を聞いてやる役を受け持った。大人びて見える時もあるけれど、自分の弟よりもまだ一つ分学年が下なのだ。気紛れで生意気で、猫の様な性格。エド・フェニックスの名は世間的にも有名であり、その重圧はいくら彼とはいえやはり重くのしかかる物だろう。だから少しでも、と随分らしくない役を買って出たのは紛れも無く自分から。とは言っても、不躾な反応にはかちんときてしまう。
『いいよ、もう。』
けれどふん、とそっぽを向く行動はやはり子どもじみていて、放っておけなくなるのも確かだ。俺にしては随分と甘やかしているな、と自重ぎみに思いながら、銀糸の髪に手を伸ばした。
自分の弟にだって、こんなことはしない。ならば何故か、と問われれば、この気紛れな猫が、意外とお気に召したから。
『悪かった。機嫌を直せ。』
す、と頭を撫でる。子ども扱いするな、と怒られるだろうかと思ったけれど、意外と不快ではなかったのか成すがままの状態で、エドはこちらに向き直る。
『亮ってやっぱりお兄さんなんだな。』
受け流し方が手慣れているね、と目を細めて笑う。機嫌はどうやら完全にでは無いものの、大方直ったらしい。延々と愚痴を吐き出してすっきりしていたのも原因だろう、苛々は随分と収まったようだ。全く、この気紛れな猫を満足させるのは骨が折れる。
『翔にはしてやった事がないけどな。』
ふとそう口にしてみれば、今度は意外そうに目を見開かれた。てっきり慣れた行為だと思ったのであろうが、生憎と弟の頭を撫でてやった覚えは無い。
『それ処か、愚痴を聞かされた事もなかったな。あいつとはあまりそういった類の話はしてこなかった。』
今思えば一種のコミュニケーション不足なのだろう。どうにも近付き方がうまくいかなくて、時たまに自分と血をわけた弟だというにも関わらず壁を感じる事がある。塩梅がうまくいかないとはこの事だ。
『へぇ、もったいない。僕が弟だったら毎日愚痴を言わせてもらうのに。』
ふふ、と笑って擦り寄る姿はまさに猫だ。もっと、の無言の催促が、気紛れさを如実に著す。だから一層手に意識を集中させてやんわりと撫でれば、満足そうな吐息。ご機嫌ななめはもう完全に払拭されたらしい。
しきりに、勿体ないなぁと呟きながら、変わってほしいくらいだと笑う。けれど近すぎると逆に上手くいかない気がして、俺は首を傾げた。こうして気兼ねなく触れられるのもきっと、赤の他人だからだ。お前が仮に弟ならば、きっとこうして話もしないだろう。




今ぐらいの位置関係が一番好ましいと思うのも、この気紛れを飼い慣らそうとは思わないから。たまにこうして話を聞く為だけに会うこの関係が、多分最上の友好条約だろう。
『お前とは今のままが一番いい。』
それに、毎日毎日愚痴を聞かされる身にもなれよ、と茶化して、もしもの仮定を思い浮かべる。いくら何でもそれでは自分が持たないだろう。振り回されるのが目に見えているな、と思えば、大方お前もそう思ったのだろう。頭の回転の早い奴だからその辺りはわざわざ説明せずとも存分に伝わるのだ。
『それもそうか。…それに、』
エドがふと考えを止めた、と知覚した瞬間だった。
意味ありげに途切れた言葉の切れ端と企みを含んだ大きな碧眼が、牙を向く。
会話の最中も途切れる事なく頭を撫でていた手を捕まれたと思った刹那、目の前に広がるのは不敵な微笑みを浮かべた猫の顔。
『こういう事も、できないし?』
ちゅ、と唇に何かが触れたと知った時には、既に離れた後だった。



『こういう事、をしたのははじめてだな。』
驚き、というよりは、やられた、と感じた方がずっと大きい。何と言っても気紛れな猫なのだから、この口付けもきっと気紛れにすぎない。
『僕もはじめてだよ。』
さらりと言ってのけると、掴んでいた手を離された。飼い慣らそうとは思わないけれど、こうして手玉に取られるのは、やはり年上の威厳としては癪に触る。きつく躾てやるべきなのだろうか、と思った瞬間に、
『君は僕を甘やかすべきだね。』
なんて、先手を打たれては成す術も無い。
『もう十分だろう。』
はぁ、とため息を吐けば、してやったりな笑顔を向けられて、全く、腹が立つにも程がある。




気紛れな猫の相手をするのは、やはり、骨が折れる仕事だ。
銀糸の髪にもう一度触れて、もっと、の合図に苦笑しながら、こうして今日という一日が緩やかに過ぎてゆく事を、何故か、心地良く思いながら。















遅い。
一体何をしている、と怒鳴り込みに行ってもいいけれど、それではなんだか負けた気がして僕は先刻から一進一退を辿っている。楽しみにしていたのか、なんて思われるのはとても癪だから。仕方なしに付き合ってやる、という大義名分が粉々になってしまう事だけは何としても避けなければいけない。ねぇ、君もそう思うだろう?と呟いたところで君はまだ来ない。
「明日何処かに行こう」の約束が、これ程多くの葛藤を生むだなんて、そうでなくとも馬鹿げているのに。



「早く。」




そうやって呟いた一言はゆるりと霧散していく。酸素の中に分解されて、もう一度戻ってくるのだろうか。そうしたら、そうしたらもう一度僕は
同じ台詞を吐くんだろうか。あの男が来るまでずっと。
待ち惚けでごろりと転がった床から天井を見上げると、何時もとはまるで別物の様だ。遠いから、何だか自分が子供の頃に戻ってしまったみたい。おかしいかな。ぼんやりしてると、思考回路がめちゃくちゃになってしまう。そうなったら君はばかになった僕を見て、遅刻癖を改めるかもしれないね。それってどうなんだろう、と考えるまでもなく馬鹿げている。ねぇ、君もそう思うだろう?って、今はまだこの部屋には僕しか居ないんだけれどね。昨期もそう思ったのに、またぐるりと巡って同じ処に戻って来たという事は、先刻の台詞は部屋を一周してしまったという事なのだ。
きっと。



「早く。」



だからもう一度同じ台詞を吐いて、この言葉がまた部屋に張り巡らされた空気を伝って一回りしてくるまでに、果たして待ち人は現れるのだろうか。多分確率は五分五分だ。意外なところで抜けている、と知ったのは最近になってからだけれど、実は本人ですら気付いていない重要機密。
なんだか眠くなってきてしまったのは、寝転がっているからだろうか。ただ待つだけという行為に飽きてしまったからだろうか。それでも自分から迎えに行くという選択肢は存在させずにぐるりぐるりと巡って早く、君が来たら良いのにと思う。




玄関に備え付けられたチャイムが鳴る頃、僕は一体どうしてるのだろうと想像して、予想より遙かにぐるぐると紛れた台詞に、君、が、チャイムを鳴らすその時を待つんだ。




きっとこのまま。まだ来ないから。














呆れた顔をされるのは珍しい事ではなかった。どうも目の前のこの男は僕の事を子どもだと思って馬鹿にしている節がある。いや、きっとそうだ。多少の我が儘はやれやれ、と呆れられながらも通り、度を越えるとやんわりと諭される。これではまるで君は僕の保護者ではないか。馬鹿にするなよ。
『亮』
コホン、と咳払い一つ、恭しく名前を呼べば無表情で見下ろされて、それだけでちょっと不機嫌になる。何なんだもう。僕は別に自分が小さい、とは思ってないけれど、それにしたってこの身長差は面白くない。こいつは少し縮めばいいのに、なんてどうでもいい事を考える。
『何だ』
相変わらずの無表情で相変わらずの上から目線。最初は何か気に入らない事でもあるのかと疑ったが、そうではないらしい。唯、癖なのか不機嫌そうな顔をするけれど、本心からでは無い事は知っている。
『いつも思っていたけれど、君は僕の保護者気取りか。大層な身分だ。』
ふん、と嫌味を全面に押し出して、怒らせられたら僕の勝ち。
けれども、現実は簡単にはいかない事は重々承知だ。昔対戦した時の、易々と口車に乗せられていた甘ったるい新人は、今となってはその頃の面影も無い。またか、と言わんばかりの呆れた顔。またか、はこちらの台詞だ。歳の差が10や20或る訳でも無いのにそんな保護者面されても面白くない。
対等もしくは君が下位だ。
『急に何を言い出すかと思ったらまた、突拍子もない事を。』
ふ、と笑って頭に手を置く。ああ、ほらそれだよ、それ。無自覚だというから驚きだ。どうにもこの身長差のせいで君は僕の頭を撫でる癖がついたらしい。それも、本人の意識下でなく。
これが子ども扱いじゃなく何と言うのだろうか。
『亮、また。』
ムッとして制すると今更気付いた様子で大きな手のひらは離れていく。
『これは、違う、』
違わないよ、もう。どんなに辞めろと言っても辞めないし、きっと数分後同じ押し問答をした所でまた同じ展開になるのは目に見えている。最初の頃こそ弁明をまともに受けていた僕も、今では流されようとすら思わない。天下のカイザー様が聞いて呆れるね。
『……お前だって。』
途端、にやりと笑う顔に、訳が解らず眉を顰めると、
『呆れた顔、していただろう。』
なんて付け加えられて、言葉に詰まった。
余り表情豊かでない男だからこそ、この顔は、駄目だ。ムカつく。腹立たしい。
『僕は良いんだよ。』
だけど君は駄目だ。続けると、してやったりな顔にまた、仕方ない、と言いたげな光が宿る。
『対等な立場が好ましいのだが、お前はどうやら俺を下位に仕立てあげたいらしいな。』
、良くわかっているじゃないか。




けれどこのまま押し問答を続けていたって丸め込まれてしまう気がするのは、君の思惑より勝っているからだと思わせてくれよ。
『当たり前だね。』
挑戦的に見据えれば、それでいいよの譲歩の答え。けれどそれではまだ不十分だ。




本当はやっぱり対等な立場がいいね、なんて言わないけれど、君がきちんと気付くべき。





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プロフィール
HN:
すめ。
年齢:
37
性別:
女性
誕生日:
1987/05/02
自己紹介:
Coccoだいすき愛してる。
ばくばくは結婚して第三子おめでたくらいいってる。
と思ってるぐらい頭沸いてる。でも書く小説は全くそんなことはなく、たいがい甘くない。
でも甘いのもあるよ。
ほぼバク獏でたまに他。みたいな感じ。
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