02：もっと酷くして良いから

一応ワンクッション！

胸の上を滑る手の軌跡を辿る。やんわりと熱を帯びていく様を楽しむかの様に、微妙に触れるか触れないかの位置を往来するものだから、物足りなさに頭がどうにかなってしまいそうだ。究極の焦らしプレイとでも言いたいのか、先ほどからずっとこの調子なのだ。意地が悪い。
『っ・・・！』
得も知れぬ期待感と物足りなさが綯い交ぜになり襲い来る。驚く程優しく抱かれる日もあれば、痛めつけられながらに犯される日もあった。けれど今、此れまでとはまた違う趣向が凝らされ、全く、巧みな技巧には閉口させられる。一体何処で覚えてくるんだか、なんて、知りたくも無いから素知らぬフリをするけれど。
『・・・ちょっと！』
其の絶妙な手先の動きにだけは、素知らぬフリなんて出来やしない。期待だけが膨らみ、既に立ち上がりかけている自身はけれど、決定的な刺激が無い為に非常に中途半端な状態だ。こんなの酷すぎる。どんなに乱暴に扱われたって、前戯もそこそこに貫かれたって、痛みはやがて快楽に変わる事を知っている。此れは気持ちの良いことなのだ、と知っているから、余りの痛みに悲鳴を上げ様と、最終的にそれは嬌声へと変わる。
でも、今は違う。声が出るか出ないかの瀬戸際では、快楽どころか痛めつけられるよりもむしろ苦痛を感じるじゃないか。
こんなの、あんまりだ。
もう何でもいいから早くきて、と、あられもない欲求に、理性なんてものはとうに白旗を挙げていた。
『・・・んだァ？』
にやぁ、と意地の悪い笑み。相変わらず胸の上を滑る手はギリギリのラインを保ちつつ、僕の考えを全て見通しながらもそうやって素知らぬフリをするのだから、お前は本当に悪魔か何かだ。ああ、邪神様だったっけ。そんなどうでもいい考えは、終わりの見えないもどかしい指の動きの前には無力なものだった。
もう、もう、何でもいいから。もっと強く触れて絡み付いて、いっそ噛み付いて。こんなの嬲り殺しだもの。
酷くして良いから、いい加減焦らさないで。




『もっと、ちゃんと、触って・・・！』
このままじゃ辛いから、と涙ながらに懇願しても、今日はそういう気分なんだよ、と一蹴されてしまえばそれまでだ。淫乱、なんて揶揄されようと構わないから、その趣向だけは止めて欲しい。
『今までなんかよりもっと酷くしていいから・・・！！』
こんなままで居るよりは失神する程犯されたほうがマシだというものだ。




その言葉忘れるなよ、とぎらりと光る犬歯を見たときに、ああやっと解放される、と至福すら感じ、
早く滅茶苦茶にして、其の歯を立てて、とやっと与えられるであろう痛みと快感に、歓喜した。




【抱いて抱かれて10のお題】 ：SILENT SPEECH　０２：もっと酷くして良いから