9/2の宿主様の誕生日をもちましてバク獏100枚書けたのでサイト閉鎖しました。
二ヶ月弱ですがありがとうございました。
『消えちゃった。』
座り込んで呆然と呟く少年の隣には、背格好の良く似た少年が佇んでいた。違う所と云えば、若干佇む少年の方が目付きが険しく、剣呑な雰囲気を湛えている、と云った所か。けれどそれ以上に差異なる部分を挙げるとすれば、其の少年は輪郭が朧げだった、という所だろうか。座り込んだまま俯く少年の身体を借りている、3000年前の亡霊だからだと云えば、少し語弊はあるものの其れで十二分に伝わるであろう。
『今度はどうした。・・・宿主。』
3000年の時を越えた亡霊は、座り込んだ少年をまたか、と言いたげな表情で見下ろしている。不可解な行動をする事はしょっちゅうらしい。宿主、と呼ばれた少年――名を獏良了という――はその言葉に反応し、俯いていた顔をあげた。随分と丹精な容姿をしているが、突拍子も無い思考回路をしているらしく、“不思議な人”と周囲からは思われているらしい。
『・・・バクラにも青い薔薇をね、見せてあげようと思ったんだけど。』
『・・・青い薔薇だァ?』
思ってもみない言葉に、バクラ、と呼ばれた片割れは思わず顔を顰めた。どんなに品種改良を繰り返したって青い薔薇は作れないと言う。不可能の象徴を一身に受ける、そんな花だ。見せるも何も、端から存在すらしていないであろう。馬鹿馬鹿しい、と思うが、けれど了は真剣な面持ちだった。勿論了も高校二年生であり、青い薔薇が実現不可能であること位知識として持っている筈なのだ。それなのに何故――そう思うが否や、バクラのそのような複雑な心境を感じ取ったらしい了が、口を開いて言葉を続けた。
『心の部屋に咲いてたんだよ。綺麗だから、君にも見せてあげようと思って、1本だけ持ってきたんだ。でも、やっぱり、消えちゃった。』
そこまで続けて、了ははぁ、と残念そうに溜息を吐いた。彼の心の部屋はとても不可解だ。独特の精神構造をしているが為に、実現不可能な花まで立派に咲かせていたようだった。なるほどそれならば合点はいく。どんなに実現不可能といえど、心の中に咲き乱れる分には十分すぎる程可能な所業だ。
『なんだ、そんな事かよ。』
『なんだって、何だよ。お前にも見せてやろうと思ったんじゃないか。』
合点がいったと納得するバクラの、けれど呆れたかのような台詞に了は反論の声をあげた。了としては綺麗に咲き誇る不可能の象徴を、彼にも見せてあげたいという善意からの行動だったというのに、なんだ、で片付けられてはやはり納得がいかないというものだろう。不満気に唇を尖らせてバクラを見上げる。
『其の顔、不細工だぞ。』
やめとけ、と言うが早いか、バクラは了の目線にあわせるかの様に座り込む。勿論同じ身体の共有者なのだから、目線はぴたりと同じ位置に合わさった。
『俺様がそっちに行きゃァ問題ねーじゃねェか。』
心の部屋、と了の胸をとんとんと叩く。心の部屋を行き来する事はバクラにとっては朝飯前だ。
たった1本だけを現実世界に持ち出さなくても、咲き誇る青い薔薇の園に彼は自由に入り込めるのだ。
『そういえば、そうだね。気付かなかった。』
名案を思いついた子どものようにぱぁ、と途端に明るくなる了の顔に、げんきんな奴だとバクラはいよいよ呆れ返った。
『道案内ちゃんとしろよ、宿主様。』
『うん、任せておいてよ。』
ふふ、とうれしそうに笑う了の顔を見て、まぁいいか、とバクラは思った。
不可能の象徴も可能にする、そんな突飛な精神構造を持った人間を宿主に選んだ自分の心眼もなかなかのものだ、とむしろ満足感を味わいながら。
青い薔薇の楽園に足を踏み入れるべく、了の意識下へと、潜り込んだ。
【ラヴカップルに10のお題】 :ユグドラシル 08:BLUE ROSE
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すめ。
年齢:
37
性別:
女性
誕生日:
1987/05/02
自己紹介:
Coccoだいすき愛してる。
ばくばくは結婚して第三子おめでたくらいいってる。
と思ってるぐらい頭沸いてる。でも書く小説は全くそんなことはなく、たいがい甘くない。
でも甘いのもあるよ。
ほぼバク獏でたまに他。みたいな感じ。
ばくばくは結婚して第三子おめでたくらいいってる。
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でも甘いのもあるよ。
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