手の平の上で踊れ

DV注意、ということでワンクッション使用。

恐怖に支配されて俺だけを感じろ。嫌だ、といわれる度にこれ以上無い至福を感じ、怯えた瞳に見つめられるだけで喩えようの無い愉悦が血液を沸騰させる。此れまで幾度か人間を寄生先に選び、痛めつけ、死よりも耐え難い屈辱を味わせてきたけれど、其の中でもこいつは格別だ。非力なくせに全力で拒絶し、怯えながらも反抗の色を失わない。何という苛め甲斐のある宿主サマなのだろうと、ぞくぞくと背筋を這い上がる快感に力のさじ加減を間違えてしまいそうになる。
『っ・・・う、』
『おおっと・・・そんなんじゃ到底逃げ切れねェなァ。』
縺れた足で這いながら、其れでもまだ逃げようとする滑稽さに笑いが止まらない。ああ、やはりお前は最高だ。
此の手で握り潰してしまいたい衝動が競り上がり、思わず伸びる手を叱咤する。塩梅がうまくいかないとはこの事だ。こいつに死なれちゃ困るのは自分自身だと誰よりも判っている筈なのに、ついついやりすぎてしまう自分は、思った以上にこいつを気に入っているらしい。お前は最高だよ。待ち望んでいた王との対面に立ち会う器だというだけでなく、俺の中の破壊衝動を極限まで高める追加効果を呼び寄せる。
『お前、やっぱり居心地いいぜ？』
くくっと喉を鳴らして笑い、這いずる身体を抱き起こす。捕まえた、と耳元で囁けば、大方恐怖に竦んだのだろう、硬直する身体にふつふつと湧き上がる其の衝動。ああ、今はまだ駄目だ。メインディッシュは後にしておかなければ。今はまだ、此のお気に入りの玩具が壊れない様に調整しなければならない。此の居心地のいい宿主様を手放すのは、もう少し先の話だ。それまでは滾る欲望を溢れ出していては不都合が生じてしまう。
生殺しの状態に、けれど此の先の快楽を知っているがこそ、待つ喜びが加算されていく。
『もう少しの間は、付き合ってもらわなきゃなァ・・・？』




抱きすくめたままの宿主を此方に向かせ、怯える瞳を覗き込みながらゆっくりと呟いた言葉に、それでも屈しない反抗の色がふつふつと身体の奥の熱を呼び起こす。
ああ、その目がいいな。やっぱりお前は最高だ。



そうだろう、愛しい愛しい、可哀相な宿主様。