9/2の宿主様の誕生日をもちましてバク獏100枚書けたのでサイト閉鎖しました。
二ヶ月弱ですがありがとうございました。
酷い、なんて言ったって無駄だという事は判っている。何時だってお前は自分勝手で自己中心的で利己的で、そして僕の事なんてまるで眼中に無い。只自分の野望を達成する為に僕が必要なだけで、用済みになれば躊躇いもせずに僕を捨てるだろう。そんな事は知っているけれど、それでも気紛れの優しさに翻弄されてしまう自分は何て単純なのだろうか。
『まだ痛むか?』
『・・・もう平気だよ。』
そうか、と呟いてまた無言になるお前は一体何を考えている。つい先刻の事だ。傷、見せてみろ。いきなりそう言ったかと思うと、僕の腕に巻かれた包帯をしゅる、と解いた。今度は何をするんだ、やめて、と恐怖に竦む僕に向かって安心しろ、とお前は言った。手当てしてやると、と続いた言葉は、想像の範疇を超えていた。
きつい消毒液の香りと包帯の清潔感が覆い隠していた傷は、意外と深い。
もっとも、思い切りナイフを突き立てたそうだから当然なのだけれど。それでも血は止まり、あとは瘡蓋が出来るのを待つばかりだった。僕としてはこの忌々しい傷を忘れてしまいたかった。君が手当てしてやる、だなんていわなければ、忘れてもいい位だった。どうしてこんなタイミングで、と問い詰めたくもなるけれど、やはり気紛れなのだから仕方が無い。
『悪かったな。』
僕の左腕を取り、傷口に顔を顰めながらそう呟いたお前のその言葉だって、気紛れなんだろう。
悪いなんて思っていない筈だ。自分の所有物には何をしたって許されるとでも思っているに違いない、お前はそんな最低な男なのだから。ご機嫌取りのつもりか、計算の上に成り立つ嘘っぱちなのか。僕には計り知れないけれど、どうせそんなところなんだろう?
『いいよ、もう。』
だから何も考えない様、思考を中断させて突っ撥ねた。どうしたって良い様に解釈しそうになる、愚かな自分が鎌首を擡げない為に。こいつは僕を傷つけるだけの存在だ。遊び半分で優しいだけだ。明日にはまた酷い人になるかもしれない。平気で僕を痛めつけるかもしれない。そうやって言い聞かせて、早く僕を解放するように願う。だって、君に握り締められた腕が熱いんだ。意識しないようにと視線を逸らしたって、其処だけはリアルな熱が伝導する。強く握られてる訳でもないのにやけに存在を認識してしまう、壊れ物に触れるかの様な優しさに包まれていて、泣きそうになる。だから僕は単純なのだ。学習というものをまるで出来ない。
どれだけ傷つけられたって、結局は此の気紛れに蕩かされてしまうんだ。馬鹿げているね。
『俺様を信じろ。』
きゅ、と腕を先刻までより強く握られて、逸らしていた視線が絡み合う。嗚呼、真剣な顔をしているね。そんな顔をしたって無意味だよ、と言いたいのに、開いた唇からは言葉が紡がれない。信じろ、なんてどの面下げて、と、揶揄の台詞も全て飲み込まれてしまう。かき消されてしまう。無言の僕を訝しく思ったのか、君は今度は傷口に唇を寄せた。噛み付かれる、とびくりと強張る体にはけれど、牙が立てられるなんて事は無かった。変わりにぬめりとした舌の感触が全身を粟立てる。
傷口を舐められているんだ、と気付いたのは、舌が這いだしてから数秒立った後だった。
『な、なに・・・』
まだ完全に瘡蓋になっていない傷口は薄い皮膚の下から肉が見えている。其処を舐められるのだから、びりびりとした痛みが拡がるのは当然だ。
けれど今まで付けられたどんな傷よりも、優しかった。
困惑したままに見つめていると、傷口から唇が離れた。
『消毒』
さも当然、のようにそう告げて、僕の瞳を覗き込む。先ほどとまるで変わらず、真剣な表情だった。
もしかしたら本当に、なんて都合の良い解釈が頭を占領していく。それも君の戦略だったとしても、もう、構わなかった。それでいいや、と思ったからかもしれない。痛む傷口が唾液に濡れて、麻痺しているからかもしれない。
けれどもう、それすらどうでもいい。
どちらから ともなく近づいた唇に全てが掻き消される事を、理解したから。
痛みは口づけの中、霧散していった。
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プロフィール
HN:
すめ。
年齢:
37
性別:
女性
誕生日:
1987/05/02
自己紹介:
Coccoだいすき愛してる。
ばくばくは結婚して第三子おめでたくらいいってる。
と思ってるぐらい頭沸いてる。でも書く小説は全くそんなことはなく、たいがい甘くない。
でも甘いのもあるよ。
ほぼバク獏でたまに他。みたいな感じ。
ばくばくは結婚して第三子おめでたくらいいってる。
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