9/2の宿主様の誕生日をもちましてバク獏100枚書けたのでサイト閉鎖しました。
二ヶ月弱ですがありがとうございました。
プラトニックな関係を、何て思っているわけではないけれど、君に触れられるのはやっぱり苦手だ。
普段は『触れられないもの』だと認識しているからだろうか、質量を持たれるとどうしていいかわからなくなるんだ。だって普段は幽霊みたいにあやふやな存在で、抱き締められるどころか手を握ってもらうことすらできないんだもの。
『こっちに来いよ。』
だから君は僕を僕の世界に呼び込む。僕の世界には僕と君の2人だけで、いわゆる心の中、というものだけれど、そこでなら触れることも触れられることも可能だから。何より、ふ、と意識を底に沈めるだけで君に抱き締めてもらえるんだから、極めて簡単なことなのだしね。
『宿主。』
何もない簡素な世界にぽつんとした人影が、ひとつ。手招かれるままに近寄れば、ぐいと抱き締められる。こんなに僕の心の世界は空虚で寂しげだったかな、とふと思うけれど熱に溶かされてそれ以上の考えを遮られてしまった。優しくて温かい熱に抱きすくめられると、やっぱりそわそわ落ち着かない。柄じゃないね。あんなにも忌み嫌う存在であった人物に僕は絆されているどころか、熱に浮かされて鼓動を早めている。落ち着かない。3千年の悠久の時を生きた亡霊の温もりに意識を奪われる感覚も、それを喜ばしく思う自分にも。
『宿主。』
また、君は僕の名前を呼ぶ。けれど先程と少し違うのは、君の声が耳元のずっと近くに谺する処だとか、意味が無い事に意味がある処だとか。きゅ、と抱き締めてくる腕の力が緩んだ、と知覚した瞬間、ちゅ、と音を立てて唇が落とされる。額から瞼、鼻、頬を経て唇へ。啄むような口付けがもたらす脳内への麻酔がびりびりと体を蝕んだ。たくさんの口付けに頭の片隅で警告音が鳴り響いたけれど、僕にはそれを止める事が出来ない。やばいなぁ。君という存在が膨らんで僕を溶かしていく。そうして、僕の心は君だけに囚われていくんだ。駄目だってば、ねぇ、そんな優しいキスの嵐は、僕の判断を鈍らせる。最後の決断を迫られた時、戸惑ってしまうじゃない。既にもう君と他を天秤にかけた時、どちらに振れるか判らないというのに。
『どうして優しくするの。』
ちゅ、ちゅ、と断続的に続いていた口付けがぴたりと止まり、僕の発言に訝しそうな表情をした君は、それでも一瞬で理解したのか、合点がいったとばかりにニィ、と笑ってまたキスの嵐を再開させた。目尻だとか眉間だとか、それこそ顔中の至る所に降り注ぐ決して柔らかいとは言えないカサついた唇が、けれど確実に僕の脳味噌をとろとろにしていく。
『他の何も見えない様にする為だ。』
唇と唇が重なる瞬間の発言に、足元が掬われる感覚。
俺様だけを見ろ、と続けられ、ガラガラと世界が崩れていった。ああ、そうなんだ。僕の心の世界は君の発言にどんどんと浸食されていく。昨日より今日。今日より明日。簡素になっていく心の部屋の最終的な行く末は、君だけが存在するという粗末なエンディングで完成するんだね、きっと。
そんなことさせやしない、なんて言えない。未だ止まない唇の感触にぐらりぐらりと傾く天秤。
落ち着かないのは、慣れないからだけではないのかもしれないけれど、そんなことはもうどうだっていいんだ。
甘いキスの先に見える終幕が絶望だとしても、プラトニックな関係を、だなんてもう願えない事を、知っていた。
空気を読めないやつだ。授業開始からおよそ30分、唐突にぎゅぅ、と後ろから抱き締められてびくり、と反応する体。それと同時に上摺る心で僕はそう思った。僕自身も周囲から常日頃言われている言葉であるけれど、多分僕よりずっとこいつは空気を読めない。否、読めないのではなく読まないのかもしれないね。そう思わずにはいられない程突然の抱擁だった。
『急に何、なの。』
しん、と静まり返ったこの状況では、例えものすごく小さな声でしゃべったとしてもきっと響いてしまうであろうから、口には出さずに心中呟く。
心の中での発言も君には十二分に届くのだから、その点では便利なのかもしれない。
学校、教室、授業中。意思を伝えるという事は、早々単純な事ではない。カリカリとノートを走るシャープペンシルの音と、無言で描きなぐられていくチョークによる言葉の羅列。私語厳禁の今この瞬間にまさか抱き締められている人間がいるとは誰も思いやしないだろう。
当事者同士しかしらない秘密の抱擁が、落ち着け、と言い聞かせるにも関わらずざわざわと僕の心を波立たせる。
『気にしなきゃいい。』
そんな僕の気持ちをきっと知っている君の発言が脳内に甘く響いた。後ろからの抱擁では顔が見えないけれど、きっと僕の大嫌いな、意地悪な顔で笑っているんだろうな、と知覚する。
先刻からぴたりと止まってしまった僕の手は、黒板を埋めていくスピードにもう追い付けないだろう。一人取り残される感覚が一番嫌いだ、という事を知りながら平気でこういう事をするんだ。悪魔、人でなし、ばか、きらい。なんでこんなことするの。幽霊みたいな存在のくせして、抱き締めてくる腕の熱っぽさはやけにリアルだ。他人には見えない曖昧な存在のくせをして、擦り寄る体の体温は誰よりも温かい。
ああ、君が、気にしなきゃいいなんて言うから、気にしないつもりの自分の体が言う事を聞かない。例えばこれが自分の部屋なら、誰もいない2人だけの空間なら、気にもならないのに。
『、だからに決まってんだろ』
す、と耳元に寄せられて、僕にしか聞こえない声で囁く君は、楽しんでいる。 こいつは確信犯だ。空気を読まないのも全部僕を困らせたいからなだけ。2人きりの時には驚く程何もしてこないというのに、こんなタイミングで、なんて、ああ、弄ばれるにも程がある。
早く過ぎ去れと思う自分とこのままでいたい自分との葛藤も、きっとこいつには筒抜けだ。
頭の中が浸食されている状態で落ちていくのは簡単な事。
諦めて委ねるしかもう、選択肢は存在しないのだ。
授業終了まであと、およそ、25分。
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すめ。
年齢:
37
性別:
女性
誕生日:
1987/05/02
自己紹介:
Coccoだいすき愛してる。
ばくばくは結婚して第三子おめでたくらいいってる。
と思ってるぐらい頭沸いてる。でも書く小説は全くそんなことはなく、たいがい甘くない。
でも甘いのもあるよ。
ほぼバク獏でたまに他。みたいな感じ。
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