9/2の宿主様の誕生日をもちましてバク獏100枚書けたのでサイト閉鎖しました。
二ヶ月弱ですがありがとうございました。
この傷が癒えるまでは、僕は君のものだ。君が居なくなって早数日、僕は自分自身にそう誓いだてた。左腕の傷は思ったよりも深く無く、季節が変わるまでには綺麗さっぱり癒えてしまうだろう。だから、せめてそれまでは君のもので居たいんだ。
『消えないで欲しかった、な。』
ぐるぐるに巻かれた包帯が今となっては懐かしい。泣きながらどうしてこんなことをしたの、と問詰めてやりたかった。人の身体に散々傷ばかり付けていって、それなのにお別れも言わずに消え去った馬鹿な半身に。
『ねぇ、どうして。』
けれど本当はこんな傷どうでも良かった。何か月かで癒えてしまう傷ならば、君の事を思い出す糧にもならないのだから。
取り残された僕はどうすればいいのだろうか。全て終わった、なんて言われたって納得がいかない。僕の中では始まっても居なかった君との関係を、ああそうですかで終わらせる何て出来やしない。
『僕は君のものだったのに。』
ぽつりぽつりと落とす言葉は空気中に霧散する。返事の無い空虚な空間に募る、侘しさと虚しさが蝕んでいく。君がいない、それだけなのにこんなにも苦しいだなんて予想出来なかった事態だ。
どうか今更だと、笑わないで。この傷が癒えない限り想わせて。
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次の日僕に会った友人は驚いていた。
『お前、包帯取れたんじゃなかったのか。』
『うん、化膿しちゃったみたい。でもやっぱり痛くないんだ。』
『…大丈夫かよ。』
心配そうに腕の傷を見つめられて、僕は演技で大丈夫だよと微笑んだ。包帯から滲む血が言い訳には少し苦しい事も、ひょっとしたらバレバレかもしれないという事も、もうどうだっていいんだ。
僕はこれからもずっとこの傷の上をなぞり、そしてその所為で傷は永遠に治らないだろう。
どうか自己満足の上に成立つ自己犠牲、だなんて否定しないで。
永遠に彼のもので、居させて。
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共鳴する、と気付いたのはこの時だった。もっとも蓋を開けてみれば君以上に僕に近しい人間なんて居ないのだから、当然と言えば当然なのだろうけれど。
『宿主。』
きぃん、と頭の中に鳴り響いたのは、何を警告しているのだろう。とにかく僕は君に名前を呼ばれる度、耳鳴りにも似た警告音に悩まされる。危険を察知した、とでもいうのだろうか。馬鹿げた話だと思わないかい。君が僕に危害を加える存在だという事は百も承知で、そしてそれ以上に君が僕を壊れ物の様に扱うという事も、周知の事実だ。君は優しいよ。それが打算の上に成立つ仮初だとしても、とにかく。
『こっちに来いよ。』
ああそうだったね、ごめんね。
呼ばれた先は心の世界で、そこでなら君と触れ合うことが出来るから。2人きりの時は出来る限り僕はそちらに行く事にしているんだった。ふ、と意識を手放せばすぐにでも行き来できる。通行手段は実にシンプルかつ明快だ。
『遅くなってごめんね。』
君に会いたくなかった訳じゃあないんだ。そう続けようとした言葉はけれど、口に出す前に拡散した。
突然の口付けのせいだ。食む様に唇を啄まれ、息が競り上がる。
『ん、んっ』
むず痒い感覚が全身を掬う。角度を変えて何度も繰り返されるキスの嵐にだんだんと意識が薄れてくるのが判って、照れくさい。君の口付けは荒々しいけれど、優しくて、勘違いしてしまいそうだ。君が僕に優しいのも、本当に僕を大切に思っているからじゃないか、とか。
なんて、そんな筈、ある訳無いのにね。
『…っ!』
けれどその時また、不意に警告音が鳴り響いた。決して頭が割れそうになる程の音量ではない。しかし耳鳴りに似た不快感は、ぼんやりとしだした頭を、熱を、急速に冷ます。
どうして今このタイミングで、と僕は自分の身体を怨んだ。何を警告したいのだろう。目の前の男が、危害を加えようとしているとか?――けれどそれは馬鹿らしい。今この瞬間だけは、君はとんでもなく温かな存在だ。荒々しいのに壊れ物に触るみたいに慎重で、大切にされている、と自負してしまう程。どうしていつも優しい口付けの瞬間だとか、優しい口調で名前を呼ばれる瞬間だとかに鳴り響くのだろう。邪魔しないでよ、と叱咤した、瞬間、
『宿主、…』
不意に唇が離されて、戸惑った様な君の顔を至近距離で見る。ああ、似ているけれど全然違う。お門違いな思考に揺れていると、君の瞳までもが揺れた。
『優しくしようとすると何時もこうだ。』
頭が割れそうな程痛くなる、と告げるその顔は苦痛に歪んでいる。――ああ、そうなのか。君の一言で僕の頭の中のばらばらのピースは全て合わさった。この警告音は僕から発された物ではなかったのだ。そして危険を告げようとしている訳でもない事も。
僕達は共鳴する。
君の身体から発された警告音を拾いあげていたからこそ、僕にとっては耳鳴り程度だったのだ。無論君自身への音は、きっともっと酷いものなのだろう。
ねぇ、自惚れてしまってもいいのかな。闇の意思に反して君が僕を大事に思うからこそ、葛藤し、警告されるのだと。打算的な行動では無く、本心からなのだと。
それならば僕はこの警告音を愛すべき存在として認識するだろう。君が痛みを感じている事は確かに苦しいけれど、それ以上に至福に感じてしまうだろう。
僕はこの先耳鳴りを知覚する都度、確認する。
共鳴する程近しい存在である君の、苦悩の愛情を。
誰にも言えない。勿論言う必要もない。惨めな僕を知らしめる必要など、何処にも無い。
それでも誰かに聞いてほしいと思ってしまう、惨めで愚かな自分。
『遊戯くん、』
目の前の小柄な友人に話しかける。好機では無かろうか。図った様に2人きりになった帰り道は、もう誰にも邪魔される事はない。例えば僕のこの愚かな話をしたとして、唯一怒らずに聞いてくれるとしたらきっと、この人だけだと打算を打ち出す。言えない。けれど言ってしまいたい。真っ向から対立意見がぶつかって平行線を辿る。日がな一日中僕はその事について飽きる程に苦悩し、悩まされ、吐き気すら催す。
『うん、なぁに?…顔色悪いけど、大丈夫?具合悪いの?』
心配そうに覗き込まれて、反射的に顔を逸らした。純真無垢な瞳が怖い、と言えば君はどう思うのだろうね。
『…体調は大丈夫。そうじゃなくて、』
そうじゃない。そう言うと君は察したらしい。話が早くて助かるけれど、見透かされそうで怖いんだ。ああ、君を聞き役に選んだのはもしかしたら間違いだったのかもしれない。
『バクラくんのこと?』
何かされた?大丈夫?と心配そうにまたもや覗き込まれる。御名答だ。バクラくんのことで、何かをされて、大丈夫でもない。全ての問い掛けが的を射過ぎていて、ぐらぐらと視界がぼやけた。僕はね、と言ってしまいたい。僕は、僕は。
『…あのね、』
すうと深呼吸をして酸素を体内に取り込んだ。言ってしまおうか。僕は君たちを騙すことになる、と。
罪悪感、背徳感、その他諸々の感情が溢れ返り、吐き出してしまえればどれ程楽なのだろうと思う。僕はもうすぐ訪れる最終決戦の手伝いをしているんだ。君たちを苦しめる最後にして最大の砦を言われるがままに創造する。これら全てを吐露したとしても、君は僕を友人だと言ってくれるのだろうか。
『、その、』
ぐるぐると色々な言葉が頭の中を巡るというのに、口を出る単語といえば歯切れの悪い接続詞ばかり。けれど言わなくてもバレバレなのだろうね。勘のいい遊戯君にはたいていの部分筒抜けなのだろうけれど、それでも君ですら知らない真実が一つある。その真実をも暴露したとしたら、今度こそ本当に嫌われてしまうのだろう。「バクラくんのこと」だって、「大丈夫ではない」ことだって真実で、そしてこれらを吐露したところで、君は許してくれるだろう。
けれど、そうじゃあないんだ。
「何かされた」、じゃなくて、「何かした」んだ。
僕は自分の意思で君たちを裏切る。自分でも驚くほどにあっさりと受け入れた夜毎の行為が僕を奈落の底へと突き落とした。体を求められたとき何故拒まなかったのかも、自分の中ではとっくに結論付いている。完全に魅入られている、絆されている、そして愛おしさすら感じてしまっている。あいつの吐息が僕にかかる度、熱っぽい視線に意識を浚われる度、罪悪感を感じながらもどうしようも無くなってしまうんだ。
それすらあいつの計算の内だと知りながらも逆らえない僕の惨めさを、聞いてほしい。そして、聞いてほしくない。騙されているだなんて百も承知だ。それでも惨めさを露呈する必要なんて欠片も無いはずなのに、どうしてか全て吐き出してしまいたくなる。
『・・・なんでもない・・・』
けれど、僕はやっぱり臆病で利口だった。誰にも言えない真実を吐露するリスクに、結局は踏み出せずに終わる。
複雑な顔でそっか、と呟いた遊戯くんに僕は心の中で謝った。きっと君は今日の夜、強いられて裏切り行為を犯す僕のビジョンに悩む事だろう。
そして本当にそうなのだとしたらどんなに僕は救われるのだろうね。
大雨洪水警報が街を直撃した。土砂降りの世界をわざわざ外へ出ようと思うほど馬鹿ではない。雨の所為で下がった気温に身震いして、暖をとる為に作っておいたホットココアに手を伸ばす。湯気が遠慮がちに発ちこめる、熱すぎず温過ぎる事もない調度良い温度にほぅ、と溜息を吐いた。満足が自己完結し、その甘やかな味わいに胸を撫で下ろす。
『凄い雨。』
叩きつける雨脚は未だ衰える事を知らない。けれど部屋の中に居ればそんなことは最早関係が無い。元より何の用事も無いのに外へ出よう、と思える程外交的では無かった為、此処に居る事は苦痛では無かった。ただ、恐ろしさすら覚えるほどの雨音をBGMに、明日は晴れたらいいのに、と願うばかりだ。
『ねぇ、』
つい、と唐突に振り向けばびくりと強張る体。
『ンだ、急に。』
それが癪だったのか、何でもないかの用に気丈に振舞う同居人に思わず笑いそうになるけれど、へそを曲げられては敵わない。必死で噛み殺してくるりと其方に向かい直った。
『僕の大魔王様。お前の力でどうにかしたり、出来ないの?』
雷が鳴ろうと風が吹こうと構いはしないけれど、それでもやはり晴れてくれた方が有難い。洗濯物も乾かないし、と俗世的な考えをする辺りとても所帯じみている。
『そんな事か。出来るに決まってンだろ。』
ふん、と何でもない事の様に言う君に、今度は僕が驚く番だった。冗談も良い所の、意味の無い台詞だったというのに。只、雨が止めば良いのにね、なんてお喋りをしたかっただけみたいなものだった。やっぱりお前は僕の範疇を色々と越えていて、そしてそういうところが面白い。
『え、本当に?』
『嘘つく必要がねェな。』
凄い凄い、と煽てれば図に乗ったのか得意げな顔になった。此れが大邪神だなんて世も末だ。けれど僕の大魔王様なのだから、少しくらい抜けている方が好感が持てるというものだ。気がつけば生ぬるくなったココアに口をつけてそんな事を思う。相変わらず気温は低いけれど、もうそんな事は気にならなくなっていた。
『ねぇじゃぁ思いっきり晴れにしようよ。エジプト並みに。』
そうやって馬鹿みたいな提示をすることが楽しくて、部屋の気温だとかには興味が無くなっていた、と云った方が早いかもしれない。案の定馬鹿みたいだ、と呆れ返る君に僕は憤慨する。馬鹿みたいだけれど、いたって大真面目なのだから。
『異常気象だっつって騒がれてもしらねェぞ。』
お前の所為で、と付け加えられたけれど、それはとても面白い事態だ、と思った。僕の所為で日本は騒ぎ出す。至上稀に見ぬ強い日差しはエジプトを思わせます。ニュースキャスターが慌てながらそう告げるのを何食わぬ顔で眺めている自分を思い浮かべると、とてつもなく滑稽だ。
『そんなの構わないよ。ねぇ、やって、やって。』
『したたかな宿主サマだこって。』
ふ、と笑われて、頭をぐしゃぐしゃに撫でられる。勿論、幽霊のような君だからそれはフリではあるけれど。ふわふわ浮かぶ幽霊が僕の願いを聞き入れる。これって、なんていうんだろう。適切な言葉が思い浮かばなくて少しの間うんうんと頭を捻って考えて、あ、と心に浮かんだ言葉はとてもぴったりな気がした。
『なんだかロマンチックだね。』
世界を滅ぼす為に存在している魔王様が僕のお願いを聞き入れる。これをロマンチックだといわずして、何を言えばいいのだろう。
ざあざあと耳障りなBGMをかき消すのは、愛しの愛しの大邪神様。
僕の願いを聞き入れて、どうしようもない猛暑が訪れた次の日、思ったとおりのニュースキャスターの慌てぶりに、僕たちは2人で笑った。
首に手をかけられる。次いで、ぎゅ、と力を込められた。ああ、お前が体を持っていたならば僕はあっさりと殺されているのだろう。けれどお前は幽霊みたいな存在で、実体が無いのだ。だから生憎と僕は痛くも痒くも無い。滑稽だね。破壊衝動が突き動かすままに僕を絞め殺そうとするお前の、その双方の瞳には僕はどの様に映っているのだろうか。大方3000年待ち続けた格好の隠れ蓑で躾の行き届いた手駒なのだろうけれど、僕はよく其れについて考える。考えて考えて、ぐるりと一周した思考はやっぱりそうなのだろうな、と結論付けて戻ってくるだけだ。お前にとっての僕の価値なんてその程度、だということを嫌という程思い知るだけ。
『手、どけてよ。』
それにしても感覚は無いとは言え、嫌な気分だ。何しろ自分と同じ背格好の悪趣味なお化けが、僕を絞め殺すふりをしているのだから。更に、それに加えて忌々しそうな瞳で見つめられちゃあ堪らない。僕が死んだら困る、と言っておいて殺気たっぷりにねめつけられるなんて、悪趣味で矛盾しているよ、と大仰に溜め息を吐けば、その鋭利なつめがぎりぎりと僕の喉元に突き立てられた。ああ、勿論痛くは無いのだけれども。
『――宿主、』
ぎりぎり。意図を計り知れない僕の喉に更に突き立てられる、爪。実体があったならば鬱血してお前もきっと、痛いよ。其れ程までに力を込めている様で僕は悲しくなった。単純に、哀しい気持ちで咽てしまいそうな程。
ねぇ今日は何が気に入らなかったの。僕が皆と楽しそうに話をしていたから?お前の呼びかける声もなあなあに、次の休みの日は遊ぼうだなんて勝手な約束を取り付けたから?お前は俺のモノだ、と告げてきた瞳は今よりもっと鋭利な刃物だった。その鋭い瞳に熔かされて、僕は君のモノなのだとちゃんと理解したじゃないか。けれど何故か今の瞳は鈍く錆付いていて、刺し殺されたらもっと痛いだろう。ねぇ、僕はお前のモノなんでしょう。手駒で媒体で格好の玩具なんでしょう。だったらそんな中途半端に餌を与える隙なんて見せないで、もっと僕を蹂躙して、弄って、服従させたらいいじゃない。期待してしまうのは嫌なんだ。ぐるりぐるりと回り続けて、君の感情を誇大評価してしまった後がひどく怖い。だからさあ早くお前にとって僕はその程度、と思い知らせて。
『ねぇ、絞め殺すか手をどけるかどっちかにしてよ。』
相変わらず錆びた瞳に向かって放った言葉は、とても酷かもしれないけれど、そんなことはもうどうだっていいんだ。
窒息死するのは簡単だ。僕の首なんて絞めなくたって、お前という存在が僕の体から酸素を奪って消していく。
お前はもう僕にとって空気のようなものだから、居なくなったらきっと壊れてしまう。
だからどうか『お前のモノ』だなんて即物的な縛りでいいから、このまま惨めな僕で居させて。
もしかしたら、何て自意識過剰な意識がぐるりと巡ってくるまでに。
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プロフィール
HN:
すめ。
年齢:
37
性別:
女性
誕生日:
1987/05/02
自己紹介:
Coccoだいすき愛してる。
ばくばくは結婚して第三子おめでたくらいいってる。
と思ってるぐらい頭沸いてる。でも書く小説は全くそんなことはなく、たいがい甘くない。
でも甘いのもあるよ。
ほぼバク獏でたまに他。みたいな感じ。
ばくばくは結婚して第三子おめでたくらいいってる。
と思ってるぐらい頭沸いてる。でも書く小説は全くそんなことはなく、たいがい甘くない。
でも甘いのもあるよ。
ほぼバク獏でたまに他。みたいな感じ。
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