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9/2の宿主様の誕生日をもちましてバク獏100枚書けたのでサイト閉鎖しました。 二ヶ月弱ですがありがとうございました。
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夏も真っ盛りな8月中旬、日本は絶賛お盆期間である。死者をもてなすという風習を見習い、僕もきゅうりと茄子と割り箸でお手製の牛馬を作ってみた。行きは早く来れるように馬を、帰りはゆっくり帰れるように牛を。そうして死者に思いを寄せるのだ。テーブルの上にちょこんと2つ、野菜で作られた動物を並べ、こんな簡素な物で死者が戻ってきてくれるなんてお手軽だなぁ、と可愛げの無い事を考える。そもそも僕が呼び寄せようと思いを馳せている人物は、古代エジプトの邪神様なのだ。日本の風習に乗っかってひょっこり現れるなんて、思ってもいない。




『あーあ。』
テーブルの上で異様な存在感を放つ茄子を指先でつついてみると、ごろん、とバランスを崩して倒れてしまった。4等分された割り箸が突き刺さっているだけの不格好な代物だったから当たり前だけれど、それでもあっけない転倒には眉根を顰めてしまう。 馬のつもりで作っていた茄子が倒れて、なんだか軽い絶望に見舞われたからだ。
どうせ君は帰ってこない。
伝統ある日本の風習でも、それだけはどうしようもない。




『帰ってきてよ、ばか。』




ごろんと倒れてしまった茄子のように僕もごろんと寝転がった。
遠くなった天井を眺めながら呟いた本音は、しんと静まり返ったこの部屋に虚しく通り過ぎていってしまった。
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ごめんね、と言われて小首を傾げた。目の前のこの人は何を謝っているのだろうか。僕には全く判らなくて、え、何の話、と本気で尋ねた。するとどうだろう。腑に落ちない、とでも言いたげな顔をされた。
『怒ってないの?』
『・・・だから何の話?』
全く話が見えてないというのに罰の悪そうな顔をされても、と思いながら小さな友人を見つめた。まずは何について謝罪しているのかという事を教えてもらわなくては話は進まない。許す許さないは、その後だ。

『・・・バクラくん・・・』
気まずそうにぼそ、と呟かれた名前で、ようやくああ、と合点がいった。
目の前の友人はどうやら、罪悪感を感じているらしかった。
『やだなぁ、そんな事。』
『えっ・・・でも、』
『遊戯くん達が正しいんだもん。あいつが負けて消えちゃったからって遊戯くんが罪悪感を感じる必要はないよ。』
にこ、と微笑むと明らかにほっとした顔になっていて、それが何だかおかしかった。




全てが終わり僕を乗っ取っていた悪者は消えた。そしてもう一人の遊戯くんも元の世界に帰っていった。
物語は此処で終焉を迎えたけれど、僕達は相変わらず他愛も無い高校生活を送っていた。




『それにね、遊戯くん。』
ふと、この目の前の人間がどんな反応をするか気になって、僕は秘密を打ち明ける事にした。誰にも言わないつもりだったけれど、こうして改めて名前を出された事が、自分の中の何かをつき動かしたのかもしれない。
『何?』
安心しきった顔が一体どう変わるのだろうか、と奇妙な高揚感に誘われて、僕は口を開けた。




『あいつは居なくなってなんか、ないんだ。』




君の大切な人は居なくなってしまったけれど、とは言わなかったが、目の前の君はくしゃりと顔を歪めた。
想像だにしていなかった言葉に思考がついていかないらしい。この世の終わりみたいな顔で僕を眺めている。心外だなぁ、と僕は思った。この件に関して自分から謝っておきながら、僕の突拍子も無い台詞に絶望すら感じているのだもの。随分と勝手な事だ、なんてとても友人に対して思う感情では無かったね。ごめんね、こんな人間で。謝るのは僕の方だよ。と心の中でだけ、謝罪した。
『え、え・・・そ、』
ぱくぱくと口を動かし、紡ごうとした台詞はけれど声にならない様だった。期待通りの反応をありがとう。
最低な僕は君のその反応だけで救われるのだ。




『・・・なーんて。』
『じょ、冗談だったの・・・?』
僕は今、どうしようもない顔をしているだろう。鏡を見たら、此が自分なのかと疑うような、意地の悪い笑顔に違いない。
冗談ではない。嘘でも無い。僕は毎夜あいつに出会うんだ。君に葬り去られた愚かな悪役に。
だから平気だよ。
君が罪悪感を感じる必要性は、全くない。
『半分本当で、半分嘘。』
意図して意味深な台詞を吐けば、一体どういう意味なの、と言いたげに見つめ返された。大きな瞳が疑念に揺らいでいる。
だって、ね。僕は嬉しいんだ。君が他人にぼそりと呟いた言葉を偶然耳にして以来、本当は君に告げたくて仕方がなかった。誰にも言わないつもりだなんて言いながら、こうして意地悪く語り出してしまうくらいに。
君に対して猜疑感を募らせた訳では無かったし、あいつが消えた事を咎めるつもりも無かった。
それでも、君の呟いた一言が、僕の感情の軸をぶらすんだ。
“夢の中でもいいから会いたいなぁ”と漏らした台詞が。




『夢で会ってるから。』




毎夜訪れるあいつを優越感の材料にするなんて、間違っている。君は夢で会わないのかと見下すなんて、間違っている。
それでも少しだけ優位に立たせてほしいと願う僕を、許してほしいね。




夢の中での逢瀬だけは、君に負けていないようだ。
毎日、夢で、会ってるから。




君は僕の支配者気取りで、けれど肝心な処で爪が甘い。殴る蹴るは当たり前、目の前がチカチカする程首をきつく締め上げられた事だってあるのに、それでも僕を殺すには至らない。意識を手放す寸前には、悪かった、と急速に肥大した罪悪感か何かに囚われるのか、僕の肩口に顔を埋めながら謝罪する。その時の君といったらまるで悪戯を咎められた幼子の様だから、僕の中に言い得て妙な感情が溢れだすのだ。君は僕の支配者ではない。僕が君を支配しているのだ、と。君は僕を蹂躙しているつもりかもしれないけれど、僕に対する罪悪感に囚われている様では甚だ甘い。それではまるで意味が無い。追い詰めて追い詰めて追い詰めて、逃げ場を無くさないと意味が無い。きっと僕の方が君より、支配者に向いているんだね。
今から僕が君に“本当の支配者は、こうあるべきだ”という事を、教えてあげる。




『ねぇ、僕ね、君の事、』




『とても、すきだよ。』




ゆっくりとなぞらえる様に言葉を選んだその後に、きゅ、と抱き締めて、
紡いだのは、支配欲。
どんなに僕を痛め付けたとしても、どんなに僕を酷く抱いたとしても、君の支配欲なんて、所詮子ども騙しだ。君は僕の言葉にじわじわと浸透されている。いずれ君は僕の言葉から逃れられなくなる。愛という名の束縛から、逃げ出す事は不可能だ。
僕の溢れる愛で、支配してあげるからね。




タオルケットに包まれたまま寝返りをうつ。空調の効いた室内で、何をするでもなく日がな一日中だらだらする事が最近のマイブームである。
気が付けば高い位置にいた太陽は西に傾き、そしていつの間にか辺りはほの暗くなっていく。そうして一日が終わる。ごく一般的な高校生の夏休みなんて、そんなもんだ。
『なー宿主。いい加減外出ようぜ。不健康すぎンじゃねェの。』
けれど生憎、僕は普通の高校生とは少々異なっていた。最近は専ら背後霊の類だと思う事にしているが、うるさい憑物が僕の心の中に巣食っているのだ。こいつはどうやらだらだらするだけ、が性に合わないらしい。随分とアウトドア派な悪霊が憑いてしまった事だ。僕は完璧にインドア派だというのに。
『うるさいなぁ。良いじゃないお金も使わないし、経済的でしょ。』
お前の意見なんて聞いてない。そう言いたくて耳に手をあてて聞こえないフリを試みる。とは言っても、こいつの声はダイレクトに脳に響くから全く意味を成さないのだけれども。
『海!海行こうぜ!海!』
『聞こえない!聞こえないよー!』
そうやって声高に抗議しても、目の前をこいつがひたすらぐるぐると動き回る。ウザいししつこい。僕は外に出たくないんだ。友達と遊ぶならまだしも、暑いし、疲れるし、用も無いのに出歩くなんて愚の骨頂だよ。




これはいよいよ立て籠もりの段階に入るしかないとタオルケットを頭まで被りかけたその時だ。
『砂漠育ちの俺様にはテメェの境遇が羨ましいってのによォ・・・』
何処で覚えてきたのか、目の前のウザったい幽霊は、殊勝な態度に切り替えだした。
しゅん、とうなだれる気配に少しぐらつくけれど、しかしこの僕に泣き落としは通用しない。
だって僕は、自分が一番なんだもの。




『・・・お前はニートか!』
泣き落としが通用しないと気付いたお前は今度は逆ギレしだした。短気な奴だ。この身体は僕のものだから、君に口出しする権利なんて最初から存在していないというのに。
ニート?ひきこもり?
望む処だ。




最低でもあと3日はこうやって過ごすつもりだから!と宣言すると、絶望的なあああああと唸る声が聞こえた。どうって事はない。無視を決め込んでタオルケットにくるまりながら、もう一度睡眠を貪る事にする。
この幸せな生活を理解できないなんて、非国民だね。




ひきこもり、万歳!




がたんがたん。規則的な揺れに瞼が落ちそうになる。電車というものは、どうしてこうも眠りを誘うのだろうか。決して、静寂であるとも言えないというのに。周囲の話し声やアナウンス、子どものはしゃぎ回る騒音。そういったものを受けて、けれどまるで催眠術にかけられたかの様に睡魔に襲われる。寝過ごす訳にはいかないのに、と自身を叱咤して持ち直しても、またうつらうつらと船を漕ぎだす始末だ。
『眠そうだな、宿主。』
がたんがたん。電車の揺れに合わせるかのように呟かれ、僕はすいとそちらに目を向けた。半透明の身体が宙に浮きながら、にやにやと僕の顔をみつめている。
『俺様が変わってやろうかァ?』
『やだよ。…何されるか判ったもんじゃない。』
す、と目を細めて睨みつけたけれど、お前は何処吹く風、といった様な涼しい顔だ。食えない奴だ、と心の中で毒づく。
『何もしねェよ。眠いんだったら俺様が代わりに表に出てやろうかと思ったんだがなァ。このままじゃ遅かれ早かれ寝るぜ?お前。』
『それはそう…だけど。でも、』
がたんがたん。電車に揺すられ、会話をしながらも意識は半ば落ちていく。周りには独り言の多い危ない奴だと思われているのかな、なんて気遣う余裕もない。眠いなぁ。春眠暁を覚えずと言うけれど、まさにその通りだ。もっとも、今は8月も中旬、真夏真っ盛りだけれども。
『何もしねェって。見てらんねェだけだ。』
意識が薄れていく。眠りの海に引き込まれていく。
本当かなぁ。大丈夫かなぁ。また何か悪さを企んでるんじゃないかなぁ。
そう思いながら、しかし僕はほとんど結論を導き出していた。この睡魔に打ち勝てる程の体力はもう、残ってはいないから。
何もしないの言葉を疑いながらも少しだけ信じて、僕は意識を手放す事にした。




『…信用ねェな。』




チッ、と僕と意識交代をした君の舌打ちだけが、まるでさざ波のように、耳に残った。
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HN:
すめ。
年齢:
37
性別:
女性
誕生日:
1987/05/02
自己紹介:
Coccoだいすき愛してる。
ばくばくは結婚して第三子おめでたくらいいってる。
と思ってるぐらい頭沸いてる。でも書く小説は全くそんなことはなく、たいがい甘くない。
でも甘いのもあるよ。
ほぼバク獏でたまに他。みたいな感じ。
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